No.144 ページ44
・
教室はまだ不自然な静謐を保っている。
Aの一挙一動を見逃すまいと、十数対の視線が背中を突き刺した。
もしかしてまた失敗した？
そんな心配とは裏腹に、ポニーテールの少女の面食らった顔が、やがてゆっくり、綻んでいった。
｢謝罪なんてとんでもないですわ！ええ、ええ、困った事があればいつでも私にご相談ください！！こう見えて、学級委員長ですの！｣
｢八百万の方が頼りになるとは思うが、そうだな。よろしく｣
｢自己紹介がまだでしたわね。私は八百万百ですわ！｣
｢俺は轟焦凍だ｣
学級委員長に暫定No.1ヒーローの息子。
なるほど、
｢よろしく｣
Aは内心ほっと胸を撫で下ろしながら、椅子に座った。
ただでさえ偏差値79の国内最難関校だ。育ちのいい、要するに良識と常識を誂えた人間しか通わない学校で、Aの様な異端の存在は弾かれたって当然だと思う。
それも目的や動機は何であれ、体を張って人を助ける職業を目指すヒーロー科なら尚更。
ただ一つ、Aが見落としていたとすれば、彼らが本当に“ いい人”達だという事だった。
Aが椅子に座ったタイミングで鐘が鳴った。
鐘と同時に教室に入ってきた相澤に合わせて全員が着席した。その統率の取れた行動に驚くよりも、Aは相澤が持つ黄色い寝袋を三度見した。
｢何で寝袋？｣
数年ぶりの純粋すぎる疑問だった。
相澤は億劫そうにAを一瞥した。のそのそと寝袋を着込みながら。
寝袋を着込むってなんだ？
｢どこでも睡眠を取れるようにだ。合理的だろう｣
｢いやおかしいだろ｣
即答だった。寧ろ相澤の言葉を遮る勢いだった。
｢睡眠の質とか清潔感とかツッコミどころは色々あるけど、そもそも教師としておかしいだろ｣
｢お前だって床より土の方が寝心地がいいと言ってただろ｣
｢あのなあ、誰が好き好んで野宿してるっつったよ。住む家がなかっただけで、ベッドがあったらベッドで寝る。質の悪い睡眠を繰り返すより、一度に質のいい睡眠を取った方が合理的だ｣
｢慣れたら楽だぞ｣
どう考えても頭がおかしい人の言動としか思えないのにこのクラスの人間が誰一人ツッコミを入れないのは、教育故なのだろうか。
Aは呆れ果てて口を噤んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 529人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エリンギ(サブ垢)(プロフ) - rayさん» コメントありがとうございます。返信が遅れてしまい申し訳ないです。生きがいと言って頂けて光栄です！ (2022年10月8日 22時) (
レス) id: d64584d3be (このIDを非表示/違反報告)
エリンギ(サブ垢)(プロフ) - あんころさん» コメントありがとうございます。最近ハマっている海外ドラマの影響で夢主の口調が若干アメリカナイズされてきていますが、どうかご容赦を(汗) (2022年10月8日 22時) (レス) @page29 id: d64584d3be (このIDを非表示/違反報告)
あんころ(プロフ) - めちゃくちゃ面白くて一気見しました！夢主ちゃんの口調とか生き方とか、先生達との関係とか、すっごい好きです！！更新応援してます😍 (2022年10月5日 2時) (レス) @page28 id: 9e178210e2 (このIDを非表示/違反報告)
ray(プロフ) - 生きがいが更新されていて嬉しい (2022年9月17日 18時) (レス) id: 79de0296fb (このIDを非表示/違反報告)
鈴木 - 初心者生さん» コメントありがとうございます。楽しみにしていただいてとても光栄です。これからもどうぞよろしくお願いします！ (2022年6月25日 20時) (レス) id: a6f881356f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エリンギ(サブ垢) | 作成日時：2022年6月22日 22時
