20 ページ23
．
まずは用語。
ページをペラペラとめくり、よく出てきた単語を箇条書きでメモしていく。巻末に索引が載っている本を見つけて探し、意味を調べてその通りに書いていった。
別に今すぐ覚えられなくてもいい。少しずつでいいから、確実に頭に叩き込んでいかなくては。
次はルール。
何をすればいいのか、何をやってはいけないのか、何をしたら負けるのか、勝てるのか。
1から10まで、AからZまで、過不足ないように、丁寧に。普通の試合じゃ使われないような細かなルールまで、全て調べて纏めていく。
次に審判のジェスチャーを、戦術を、応急処置のやり方を、スパイクの打ち方を、レシーブの仕方を。
色とりどりの付箋が貼られた本は次第に数を増していった。
読んで、理解して、自分なりの解釈をして、覚えて、紙に分かりやすいように書き起こす。
過集中とも呼べる時間の中、ペンが紙に当たる音だけが鮮明に耳に届いていた。
少しだけ息を吐く。頬を伝う汗を拭う。炭素片で黒く汚れた手の側面を見る。
ノートを見ると、もう少しで1冊が終わろうかというところまで来ていた。驚いて時間を確認すると、もう日付はとっくに変わり、短針は2時を指している。
同じ文章を書いたページでもありはしないかと書いたばかりのノートを軽く眺めて見るが、同じページはどこにもない。
はぁ……と１つ溜め息を溢してから残りの数行を丁寧に書き起こし、全てのページ、全ての行を綺麗に埋める。
たった7時間そこらで1冊を使い切ってしまうとは……。なんて考えるが、別に悪いことではない。ただ、元々書く気だったものを1冊に纏めきれなかったというだけだ。
音を立てないように部屋を出てダイニングに向かい、食卓に置いてあった食事を軽く温めて口の中に入れた。
私の家では家族全員で食事を取ることがあまりない。父親も私も、部屋にこもって何か研究をしていることがほとんどだ。そして、声を掛けたとしても基本気付かない。それを全員が理解しているからこそ、食べたい時に食べるというような空気が生まれた。
豪華なものではないが、頭をよく使ったからか今日はいつもよりも美味く感じる。
胃に食べ物が収まった感覚がし、疲労感が薄れる代わりに眠気が段々と顔を出す。
食器を片付けてから部屋に戻り、目覚まし時計を5時にセットして約3時間の睡眠を取った。
浮かんでいるような感覚からすぐに無くなる意識。
心地の良い時間は長いようで短く、夢も見ないまま大きな音が鳴り響いた。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 49人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
森谷きのこ(プロフ) - ひよりさん» コメントありがとうございます。気を付けているところやこだわっているところを褒めていただき、嬉しい限りです。細々とではありますが続けていくので、これからもよろしくお願いします。 (4月4日 22時) (
レス) id: 8dba170153 (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 文章の構成、 情景や感情の表現、言葉選び諸々凄い丁寧で素敵でこの作品に惹かれました！楽しく読ませてもらってます！ (3月31日 1時) (レス) @page19 id: 67c39a707a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：森谷きのこ | 作成日時：2024年2月26日 10時
