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その言葉は私が目を逸らそうとしていたものを、眼前に突き出されたような気分にさせた。
どうせ理解なんてしようともしない、普通と違うなんて理由で何かと遠ざけようとする、何か言ったところで“能力のある人間の理不尽な言葉”にされる。
そんな経験則と身勝手な思い込みで、私はもはや抗おうとすることもやめてしまっていた。
反論せず、言葉を飲み込み続けること。それこそが最も傷付かずに生きる方法だと思いたかった。
田中、と呼ばれていたその男が私に言う言葉は普通のことで、当たり前で、それでいて私を酷く苛立たせた。
お前に私の何が分かるんだ、と、感情に任せて出そうになる言葉を無理矢理抑え付ける。
「ストップ！！やめろよお前ら。流石に言い過ぎ」
静止が入っても、それでも苛立ちが収まるわけじゃない。
腹の底でとぐろを巻く感情を隠せないまま、私はあいつの横をすり抜けて外に走って出た。
自分が必死に逃げようとしてきた何かが今、私の首筋を掠めたような、そんな気がしてならない。
「……私はいつ、こんなに臆病になったんだろうな……」
誰も居ない校舎裏で、自虐のような疑問を投げかける。それに答えるものは、勿論何もなかった。
家に帰ってからも、さっき言われた言葉が頭の中を離れなかった。「逃げてるだけ」という言葉は真実で、私は私が傷付かないために向き合うことを諦めた。
逃げないというのは、どういうことだろう。
向き合うには、何が必要だろう。
いつの間にか朝になって、学校へ行って、授業を受けて。それでもそのことを考え続けていた。
「冷泉さん。冷泉さんのこと呼んでる奴居るよ」
誰だ？と思って廊下に出ても、知り合いは見当たらない。横に目を向けると、昨日喧嘩したばかりの人物がそこには居た。
まだ私に文句があるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
口を開こうとしたその時、そいつはいきなり頭を下げた。至近距離ではうるさく感じるほどの大きな声と、本心からであろう精一杯の言葉。
思わず「は」と声が出た。
……真っ直ぐな言葉というのは、こんなにも揺さぶられるものだったか。
相手に伝えようとして放った言葉というものは、こんなに綺麗なものだったか。
これが『正解』だと、『答え』だと気付いた。
内側から滲み出る嬉しさと楽しみを隠さず、目の前のそいつに軽い仕返しを一つすると、間の抜けた顔がこちらを向いた。
これくらいの悪戯は、しても構わないだろう？なんて。
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森谷きのこ(プロフ) - ひよりさん» コメントありがとうございます。気を付けているところやこだわっているところを褒めていただき、嬉しい限りです。細々とではありますが続けていくので、これからもよろしくお願いします。 (4月4日 22時) (
レス) id: 8dba170153 (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 文章の構成、 情景や感情の表現、言葉選び諸々凄い丁寧で素敵でこの作品に惹かれました！楽しく読ませてもらってます！ (3月31日 1時) (レス) @page19 id: 67c39a707a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：森谷きのこ | 作成日時：2024年2月26日 10時
