23 MK ページ23
「鞄！その辺置いといて！」
彼女は鍵を開けて早々、奥の部屋から大きなタオルを二枚持ってきた。
「マーク、あんまり傘入れてなかった？ごめんね」
もっと大きいの買えばよかったね
『でもほら、大きいのは高いじゃん。節約節約。』
「でも、マークがこんなに濡れてたら意味ないのー…」
そう言う彼女は、特に濡れた俺の左肩のシャツと首元を軽く拭き取った。
彼女は彼女で、所々肌の色が見えるほどに自分のシャツも濡れている事に気付いているのだろうか。
彼女のスニーカーやロングブーツに囲まれながらそんな彼女を見下ろすその光景は、何とも異様だった。
「シャツ、着替える？あるよ、元彼の」
『いや、俺パッと帰るから』
ていうか、捨てなよ？そういうのは、笑
「だって、結構状態綺麗だから」
ただただ勇気が出ない。
また俺は、彼女の口から自分の望む言葉が出るまで待つ事しか出来ない。
だって、自分の口で言った望みを彼女の口で切られる方が、正直辛いと自分でわかっているから。
だから、俺を引きつけようと呼びかける彼女を探してしまう。
『ごめん、帰るよ、タオルありがとね』
「だめ、濡れたまま外でたら風邪引くよ」
返そうとしたタオルを受け取って、彼女は参った顔で先に玄関にしゃがみこみ、俺の手を下に引いた。
しゃがみ込んだ俺の頭を優しく乾かす彼女に対する思いは、愛しい以外の何物でも無かった。
息苦しいくらい、目の前の彼女で頭が一杯だったのだ。
ただただ、恋をしていた。
あぁもう。
心が我慢出来ずに、それを命じたのだ。
唐突だけど、仕方ない。
その気持ちは決して急なんかじゃななかった。
彼女はずるくて、憎い人だった。
『好きだよ』
好きだけじゃ、言葉が足りない。全然足りない。
でも結局、好き以外に何にも言葉が用意出来ない。
でもずっと俺が待ち望んでいたのは、
彼女に好きだと、ただそれだけを伝えることが出来た瞬間だった。
すると目の前にいる彼女は少しの綻びを見せてから、視線を落として俺の指に、優しく触れていた。
「明日、日曜だよ」
『うん、そうだったね』
「ふふ、マーク、顔赤い」
『きっと風邪だよ、ぼーっとする』
「うそ、じゃあ帰って。笑」
その言葉に反して、絡まった彼女の指は想像以上に細くて、手のひらは想像以上に薄かった。
『ごめんね、移しちゃうかも』
途端に触れた彼女の髪はまだ冷たくて、
唇は温かくて、頬は熱かった。
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かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
