22 MK ページ22
『そろそろ、タメでもいいんじゃないんですかね？』
多分この辺りの頃なんだろう。
何か物足りなくて、初めて彼女に欲を感じ始めたのは。
自分の事を、ただの同僚として済まして欲しくない、と。
俺はいつも彼女と食事をする時、手に届きそうで届かない彼女を漠然と憧れるような想いで彼女を見ていた。
片っ端から諦めていたとか、そういう事じゃない。
どうして彼女はこんなにも、特別なのか。
ただ、決して報われる見返りを求めてはいけない、とは思っていた。
だけど、確実に変化している何かがあった。
前まで想いの矢印は、彼女の周りを遠回りした挙句、彼女の数センチ手前で急ブレーキを踏んでいるような感じだった。
でももうその頃には、直線で、加えて彼女が矢印の先の方を掴んでくれているような感触さえあった。
そしてその感触は、気の所為では無いようだった。
雨の日だった。
店を出た直後に急に降り出した雨は、俺達を濡らした。
「割り勘ね。節約節約！」
彼女はそう言って、コンビニで傘を一本取ってレジに行った。
でもいずれ帰り道が別れる二人には二つの傘が必要になるという事に、俺は気付いていた。でも言えなかった。
『寒い？』
「ん、ちょっとだけ寒いかな」
『入れるとこ探そっか』
俺の、そんな濡れてないから、羽織って
「もう夜遅いから、すぐ追い出されちゃうよ。笑」
だめだめ、寒いでしょ？
『ほら、カナダ寒いからさ、慣れてる』
「ふふっ、カナダボーイは頼もしいね、ありがと」
このまま、時間が止まったらいいのに。
傘を閉じたくは無いし、雨宿りもしたくない。
いつも俺を憂鬱で暗くさせる癖に、色は透明だと主張する雨に、唯一色を付ける存在が右にいた。
彼女はいつだって、俺の体温を一度上げる。
頭ではなく、心に従え。
そんな気持ちは、段々と俺の足取りを遅くしていく。
でも何度か触れた彼女の手は、とても冷たかった。
『もう、タクシー捕まえよっか』
一万で足りるよね
「ううん、歩けるよ」
変なとこでお金使っちゃだめ
『でも、俺達仲良く風邪引いちゃうんじゃないかな』
俺は、わざと彼女のその言葉を誘ったのかも知れない。
彼女の家がそこから近いと言うのは知っていた。
それを知った上で、俺はいつから微かな期待をしていたのか。
彼女が一つの傘をレジに持っていった時か。
彼女の肩が、自分に触れた時か。
はたまた、雨が降り出した時か。
「じゃあうちで、ちょっとあったまろうよ、」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 875人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
