21 MK ページ21
そこからの他愛無い話は、かなり心地良かった。
彼女の言う通り、その時間だけは仕事の事を忘れることにして。
「いいところですよね。行ってみたい。羨ましいです。
プーさんの地元ですし。」
俺の故郷を聞いて、メープルシロップやオーロラ以外を口に出す人は彼女が初めてだった。
それを伝えると彼女は、
「あっ、確かに。
もっと賢い事言った方がよかったかな。笑」
そう言ってスマホを取り出して数秒後、彼女の口から出てきたのは俺でも聞いた事のない滝や湖の名前だった。
俺はその時、綺麗に笑えていただろうか。
必死だった。
俺のこの想いの矢印が彼女に見えませんように、って。
名前の知らない滝や湖に笑っているんじゃなくて、
その赤らんだ頬とその澄んだ笑顔に胸が掻き乱されて顔が緩んでいるという事が、彼女にバレませんように、って。
『そういえば僕達、連絡先交換してませんよね』
-お土産ありがとうございます。嬉しいです。
-毎朝あのカップでコーヒー飲む事にします☕️
正月が明け、真っ先に成し遂げなければならなかった事は、
完成した仕事の資料を提出する事でも何でもなく、ソレを彼女に渡す事だった。
早くあの笑顔を俺に向けて欲しくて。
「そんなわざわざ、いいんですか？！」
彼女と笑い合える時間を、良い思い出としてあれだけで終わりにしたくなかった。
連絡先を交換しあっただけの仲で終わるのは駄目だと催促した俺は、正月故郷に帰った際にプーさんのマグカップを買って“ お土産”という形であげる事にした。
“ 贈り物”や“ プレゼント”よりかはカジュアルに行きたかった自分にとって、それは絶好のチャンスだった。
帰省時は、スーツケースも持たず大きな鞄に服を数枚とパソコンだけを雑に入れるのがデフォルトな自分なのに、
その箱を自分の衣服で包んで丁寧に入れる自分を思い出すと、今でも何処か恥ずかしいし、笑ってしまう。
一つの感情だけでここまで人は簡単に動いてしまうのだから、恋というのはすごく特別なものだ。
複雑だったり、単純だったり。
喜怒哀楽とは何か違った強力な原動力がそこにはある。
それが恋だと思う。
-もしマークさんが良ければ一度、ご飯一緒にどうですか？
-お礼もしたいですし。
ターニングポイント。
もしここで、ルートBに足を進めていたら。
でも、彼女からの蜜が欲しくて堪らなかった俺にとっては、道は真っ直ぐただ一本な気がして。
だから、恋は盲目だと言えるのだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 876人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
