20 MK ページ20
彼女を目で捉えすぎてしまう自分が疚しい。
午後九時。
店から出ると、冷えた風が首元を通り、コートを揺らした。
辺りは、酒の匂いまで伝わってくるような赤い声と顔で溢れていた。
街のあちらこちらでネオンが灯っていて、道にある水溜まりに色が落ち、綺麗にそれを反射している。
それは、いつもと変わらない。
だけど、視界の片隅に彼女がいるだけで、その光景はいつもとは確実に何かが違って、酷く重く、どこかが特別だった。
数時間前と比べて随分人数が少なくなったものだから、小さな集団となって次の店までの繁華街の道を歩いた。
いつ、どうチャンスを掴もうか。
友人と笑いながら歩く彼女より1m程後ろをずるずると歩きながら、そんな事ばかりが頭を埋めた。
「それでさー、ヒョンがアイツに前さー」と俺の肩に手を置くチョンロの言葉は、これ以上覚えていない。
だけどそれは吉と出た。
その店は、比較的落ち着きのある店で案内されたのはカウンター席だった。
先頭を歩いていた社員から順に席を埋めている様子を見て、余力な力がどっと抜けた。
俺は、彼女の1m後ろをずるずると歩いていたおかげで、意図せずに彼女の左隣に座る事が出来た。
果たしてそれは本当に吉だったのか。
今となっては凶だったのかも知れない、と溜め息が漏れる。
『Aさん、あの資料どうなりました？』
彼女に声をかける事ができたのは、結局入店してからどのぐらいの時間が流れた頃だっただろう。
声を掛ける事ができた、とは言っても、右を向いて同僚と喋っている彼女を横目でぼーっと見ていた時に、俺の左にいたチョンロが急に
「ヌナー、正月なにすんの？」
と言った拍子にこちらを向いた彼女と少し目が合ってしまったのが原因だった。
チョンロと話す彼女の頬が、店に入る前より少し赤らんで見えて、あー、可愛いな、と視線を落とした。
そして彼女にやっとの事で掛けた言葉がソレだった。
「今日やっと終わりましたよ、どうしても正月に持ち込みたくなくて」
『流石ですね、自分は持ち込みになりそうで』
「マークさんが？珍しくないですか？」
『毎回ギリギリなんですよ、基本怠けてます』
「でも今日ぐらいは、んー、忘れてもいいんじゃないですか？」
彼女はそう言って、俺が持つグラスに彼女自身のグラスを合わせて、「かんぱーい」と音を鳴らした。
目を合わせられない。彼女とは。
彼女と目を合わせる度に、マンホールの底にあるような俺の恋心は突き上がって堪らなかった。
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かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
