16 MK ページ16
またか、とため息を吐いた。
大丈夫、きっと大丈夫、と仕事もろくに手が付けれない自分に言い聞かせていたあの長い時間が随分醜い。
鍵を閉め靴を脱ぎ、腕の時計を見ると、ちょうど短針が9を越した辺りだった。
もしかしたら急激に時計が狂っていて実は6時だとか。
もちろんそんな訳はなくて、会社の時計が8時頃を指しているのを俺は最後に目撃していた。
リビングから漏れる灯りが一切無いことも、
彼女の黒のピンヒールが見当たらないことも、
この時間に彼女が俺にメッセージを一通も寄越さない事ことも、
最近となってはもう驚けなくなっていた。
ただ一つ言えることは、その三条件が重なった瞬間、彼女は日付が変わるまで帰ってこないという事が確定する。
冷たい空気のリビングに向かいながら、最後の可能性や希望を求めるようにメッセージの通知を遡っては最新にスクロールするのを繰り返していた。
その時、視界の端でお見舞いしてくれたのが、
寂しく一つ置かれたシルバーのリングだった。
これは俺が知る限り、彼女からの初めての試みだった。
昨日の言い争いが、彼女にかなり効いたのだろうか。
何故かソレに全く近づけない俺は、傍から見るとどれだけ間抜けだろう。
やっと一歩踏み出して指輪を触ってみるも、数秒後にはもうテーブルに置いている自分がいた。
洗面所で手を洗っているとちらちらと視界に入るやつれた自分の顔を改めて眺めた。酷いものだった。
昨日の夜更けはパソコンと向き合っていたし、
寝室に向かおうとしても、部屋の中で眠る彼女に怒りでは無い何かが押し寄せて堪らなかったから、ソファで眠った。
そしていつも通り、彼女が目覚める前に家を出た。
故にいい眠りにはつけなかった。
そこで気が付いた。
今日はまだ彼女の顔を見れていない、と。
彼女より早く目覚めてベッドを抜け出し、めくれた布団を彼女の肩までそっとかける、という事を今日は出来ていない。
少なくともやつれている要因に少しはソレが含まれている気がする。
どうせここでまた俺が定型文のようなメッセージを送ったとしても、彼女はいつもの様に数時間という時を流してから下手な言い訳を寄越すのだろう。
昨日だって、彼女の言い分が嘘八百だと分かっている上でしつこく問い詰めた。
すると早々彼女は、俺では無い方に身寄りに行ってしまった。
全部わかってる。
分かってる上で、俺はまだ彼女を愛してしまっている。
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かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
