15 HC ページ15
ヌナは、ベランダで灰皿を見ていた。
灰皿に寄り添うようにしてベランダに立っていたブロンドの彼女と、灰皿と少し距離を空けてソレを見下ろしながらベランダに立っているヌナ。
その二つの様子は似ているようで全く違う。
ヌナのその視線は、嫌悪感か、好奇心か。
それは初夏の頃の自分にとても似ている。
『ヌナベランダ好き？ここ風気持ちいでしょ。』
そう言う俺は、素直にこの風が気持ちいいと感じた事はなかった。
だってここの風は、彼女のタバコの煙を俺の鼻に運ぶ材料でしか無かったから。
いや、ここの風はタバコの煙そのものでしか無かった。
彼女とベランダで並ぶという経験自体が、あの日の深夜二時が最初で最後だった。横から自分の鼻へと辿り着くあの煙たさを経験したのもあの日が初めて。
だけど、あの一度限りのタバコの匂いが感情的に濃くこびり付き、ここの風の概念と混ざってしまっている。思い出として。
そして仕舞いには、彼女への気持ちを消化させようと考えた結果、もう暫く自分の鼻に煙を舞い込む羽目になった。
いい知らせを運んでくる風なんて、一つも無いまま。
ヌナに近づくと、自分の匂いがした。
慣れ親しんだ匂いのはずなのに、唆られてしまう。
嗅覚は五感の中で唯一、人間の本能や情動に直接働きかける繊細な感覚なんだという。
全て自分が仕掛けた事なのに、結局自分がコントロールされている事実が可笑しかった。
ヌナに近づけば近づくほど、なんでヌナは毎日あんならしくもない爽やかな香りを纏っているのか分からなくなった。
単純に、この甘さのある香りの方が、ヌナらしかったから。
目の前のヌナの瞼にいつもの色味が乗っていないところや、唇の血色がいつもより薄いところ、全てが一段と自分を昂らせた。
理性を必要としないその夜に俺はヌナを抱き寄せて、いつもより空いた首元に顔を埋めた。
枕元のスマホが光ったのは、ベッドでヌナを見下ろしている最中だった。ヌナのだった。
차기야
-気にしないで。
-明日会社休みだから、明日は昼一緒に食べよう。
彼女の無機質なホーム画面に、そんなメッセージが流れた。
今の私？と枕元を探るヌナの手首を掴んで、指を絡めた。
気抜けした顔のヌナの唇にゆっくり噛み付くと、温かかったヌナの手が俺の冷たい背中に回った。
今は俺だけに集中して欲しいというのが伝わったのだろうか。
そして朝方、スマホを弄るヌナを横目に俺は初めて、
マークという名前をヌナの口から聞くことになる。
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かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
