14 HC ページ14
その日から何かが変わったなんて言うまでもなくて。
毎日、オフィスの明かりが少なくなり、人影が無くなってはヌナの唇に縋った。何度も、何度も。
シナリオが速すぎる気がしたけど、引こうにも引けなかった。
だってヌナの俺に対する態度の変化が、著しかったから。
「だめだって」
最初、そう言って空気がディープになるのを避けようとするのは決まってヌナの方だった。
もう既に俺に濡らされた唇を小さく噛みながら、帰る準備をするヌナをボーッと眺める時間で、思う事は沢山あった。
今ヌナは、俺に触れられた事に負い目を感じてるのかな、って。
目の前にいるのが、指輪の差出人じゃない事をどう思っているのかな、って。
考えれば考えるほど先に進む自信が出てこなくて。
でもそんなヌナも今となっては、
『本当に嫌なら、やめるけど』
という俺の言葉の次の瞬間には、何も言わずに俺のシャツをクシャッと掴むようになった。
本当に自信が無かった分、それはとても幸福で。
それによって出来たシワが唯一、家に帰った俺の虚しさの欲を埋めるモノになった。
自分が求めている相手に、同じように求められていると目に見えて分かるのは、想像と同じぐらい気持ちいい。
そのシワを見る度に、自分の目の前で閉じるあの柔らかい瞼がフラッシュバックして、堪らなかった。
「じゃあ、また明日ね」
でも会社を出てすぐそう告げて、毎日俺と反対方向の帰り道を歩き出すヌナの後ろ姿を見ると、どうも落ち着かない。
ヌナを目で見送るのも辞めて、ゆっくり足を自分の家路に踏み出してみるも、胸騒ぎが酷い。
その煩わしさを一時的にでもいいから消したくて、アルコールを借りようかと居酒屋を横目で見るものの、店のけたたましい雰囲気に、気が萎える。
この胸騒ぎの正体なんて、分かりたくもない。
でも次の日、またヌナの頬を撫でると、胸騒ぎの正体が間違いなく心の中に立体的に確立されていくものだから、苦痛だった。仕方ない。
俺が好きだったスリル、
既に他の誰かのモノだと分かっているヌナを愛すスリル。
もう俺が好きなのは、それじゃない。
ヌナが後々またあの人に叱られようと、俺は知らない。
その時は、また慰めてあげるし、触れてあげればいい。
とにかく、ヌナに愛されているという実感に満たされる、長い意味のある時間が欲しかった。
『家、来る？』
あー
結局自分のものにしたがってる。
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かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
