13 HC ページ13
それから毎日、彼女が置いていった煙草の箱に手を伸ばしている。
彼女が置いていった煙草が空になるまで一日一本、というのを理由にして。
残り三本。今日ヌナは目が腫れてた。
「あの人に怒られた」
そうヌナは言った。
原因はなんだったの？
それはヌナが悪かったの？
それともあの人が悪かったの？
もう仲直りはしたの？
それともしてないの？
聞きたい事なんて山ほどあるのに、深く聞けなかった。
そんな生々しい詳細を聞いてもどうせ、結局自分は負けの立場に居るということを再確認するのも同然で、哀れで虚しく思えてくる気がして。
だからただ黙って、頬に触れる事しか許されない。
本当は、その小さな身体に触れたくて堪らないのに。
残り二本。今日ヌナはずっと上の空だった。
あの日、居酒屋で婚約指輪を見せてきたあの日のあの顔、幸せそうなあの顔を、俺は暫く見てない。
しかもそれに反比例するかのように、
“ドンヒョクは優しいね”
“私達、一緒にいると落ち着くね”
ヌナのそんな言葉ばかり耳に入ってくるものだから。
だから早く、聞きたくて仕方なかった。
聞いちゃダメだって、分かってるけど。
とにかく、俺に余地があるのか知りたくて。
“わからない”
ヌナの答えはこれだった。
予想外でありながら、予想内。そんな答え。
思わず笑ってしまいそうになった。
こんなの、チャンスでしかないから。
“婚約相手”というブレーキが無くなりかけている今、もう俺が遠慮する必要はない。
というか、もう遠慮なんか出来なくなった。
この瞬間、俺の望みが目前にまで迫っているのだから。
あともう少しで…という状況なのに、身を引ける訳がない。
ねえヌナ。
もう、どうでもいいでしょ。
所詮、指輪で保ててる関係なんだから。
残り一本。今日ヌナの唇に触れた。
ヌナは拒まなかった。
その言葉にも、行動にも。
昨日から今後俺はどう風向きを変えようか、ずっと考えた。
もう一度ヌナの目が腫れるのを待とうか。
それとも飲みに誘ってアルコールの力を借りようか。
はたまたヌナの方からのアプローチを待ってみようか。
だけど策略を練ること以前に、期待するほど自分の忍耐力は頑張ってくれなかった。
だって、ヌナがオフィスでのあの状況を拒まなかったから。
身体が近くて、ヌナの香水がいつもよりリスキーに、濃く匂う。
唇に触れながら椅子のキャスターを滑らせ、身体を近づけると行き場をなくしたヌナの手は、俺の太腿へと。
そんな事されたら、もう。
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かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
