12 HC ページ12
朝起きると横に温もりは無かった。
寝ぼけながらに天井を見て、頭を掻きながらサイドテーブルに腕を伸ばすと、腕時計とはまた違う小柄なものが手に当たった。
鍵だった。
好きな時にここに来て欲しいと随分前に手渡した合鍵。
渡して間も無く、大きめのキーホルダーをジャラジャラつけて使っているのをよく見ていたから、
随分スリムになった鍵が、なんというか、不思議だった。
そして彼女はもう一つ、名残を残していった。
それは、見慣れたメーカーの煙草。
いつもの午前二時の彼女とバディであった煙草が、ベランダの縁にぽつんと侘しく置かれている。
昨日買ったばかりだったんだろう、中身を確認すると、抜けている本数は一本だけ。
ただの忘れ物なのか、この家に余韻を残したかったのか。
そして無意識に、キッチンにライターを取りに行く自分に驚いた。
煙草に対しての好奇心は、前からあった。
吸った事が無いからこそ、彼女が執着するソレがどんなにいいものなのか、気になってしょうがなかった。
でもやっぱり世間が持つ煙草への印象が引っかかって、吸ってこなかった。何があっても。
でも今日ぐらい、いいかな、って。
彼女への気持ちを消化させる道具にしてもいいかな、って。
だからもう一度ベランダに出て、彼女の真似事をした。
先に煙草を口にくわえて、ライターを付けようと試みたものの、それは思いのほか難しい。
五度目のスライドでやっとついた火を煙草の先に近づけ、軽く吸い込んでみると、喉の違和感が酷い。
喉の違和感を押し切って、深く吸い込んでみると酷く咳き込んでしまって、それは決して良いとは言えない。
彼女のように粋に吸えない自分が面白くて、失笑するしかなかった。
初めての喫煙はこんなものか、ポケットからスマホを取り出すと、
-私は楽しかった
一番上の通知にある見慣れたアイコンの横にそんなメッセージが残っていた。
送信時刻を見ると、今から6時間前。
今が11時だから、このメールが送られたのは5時。
彼女と昨日眠りに着いたのは、いつだっけ。
部屋には少し光が入り始めていた気もするけど。
返信は、しなかった。
それは腐ったプライドのせいなんかでは無くて、ちゃんと考えた結果、そうなった。
色々考えたけど、それを考えるのが、もうストレスで、億劫で。
決して悪い意味はないけど、正直、どうでもよかった。
俺は、もう疲れたよ。
彼女はもっと疲れただろうに。
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かげろう(プロフ) - みさん» コメントありがとうございます。シリアスめなものを書くのは初めてなので、ちゃんと皆さんに満足して頂けているか心配だったんです…泣本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。小説は、幼い頃から全く手につかないんです。毎回文字で酔ってしまって…笑 (1月1日 5時) (
レス) @page10 id: 78c5f6ccc2 (このIDを非表示/違反報告)
み - 素敵、日頃から小説を読まれたりするんでしょうか？何年ぶりか占ツクを覗いてみたらこんな素敵な作者様に出会えて感動。更新楽しみにしてます (12月30日 3時) (レス) @page10 id: af8ac8d205 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かげろう | 作成日時：2023年12月19日 3時
