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泣いている私を見て、手越さんがニコニコして続ける。
「お父さん選ぶ時はね、お母さんのことが好きな人がいいって言ったの。物静かで、働き者のお父さん。Aちゃんのお父さんはね、小さい頃貧しくてね、大学行くのあきらめたんだよね。だから余計に働き者なんだよね。小さい頃から、Aちゃんはいつもあったかいおうちであったかいもの食べてた。可愛い服着せてもらって」
ああそうだった。
その話、お母さんから聞いたことがあった。
お父さんはいつもいなかったけど、お母さんは家にいた。私大学まで出してもらって、不自由なく、暮らしてきた。お父さんは家族に興味がない仕事人間だなんて、私はなんという感性をしてたんだろう。
お父さんとお母さんからの愛情に気づかないで。ザーザーに受け流して。ひとりぼっちだなぁなんて。
バカだな私。
私をなくした両親が喪服を着て座ってる景色に、涙がハラハラ止まらない。
「Aちゃんはね、ここのところ疲れてた。サインに何にも気づかないんだもん。何もかも自分で選んでいったことも忘れてさ?まぁ忘れちゃうシステムにしたのは上だから仕方ないんだけど」
手越さんが私の肩を両手で支えるみたいにぎゅってする。
そのまま、左手をすうっと上に挙げて、それを目で追ってたら、いつの間にか職場のデスクの前にいた。
斜め前には櫻井先輩。先輩がいるデスクの上だけ電気がついて、あとは真っ暗。
隣の課の相葉さんが近くに来て、声をかけてる。
「お疲れ、まだ残るの?」
「うん、Aの残務」
「…大変だね」
「ほんとにさーあいつマジ迷惑だよね」
櫻井先輩。しんだ私にすら悪口言ってる。
むむ、って思って見てたら、相葉さんが言いにくそうに言う。
「……そんなこと言って。一番面倒見て、可愛がって、育ててきたのに」
「できねえやつほど可愛いってゆーよね?」
「Aちゃんは出来る子だったよ。っていつも褒めてたの翔ちゃんじゃん。だからこそ手をかけて、もっと伸ばしたくなったんでしょ」
「……バカだよねあいつ。前々からバカだなって思ってたけど。こんな……急に」
「翔ちゃん……」
「いなくなったら誰が蕎麦買いに行くんだよ、ふざけんな」
そう言って櫻井先輩が声を詰まらせる。
え?
泣いてる。櫻井先輩が?
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ゆっちゃん - もうスッゴい感動です!いつの間にか涙腺崩壊してました(;つД`)またこのような作品が読みたいです! (2018年4月27日 0時) (レス) id: 690f139b43 (このIDを非表示/違反報告)
LOVE - 超感動で泣いてしまいました。マジ感動作。今回みたいな感動作また作ってください! (2017年3月31日 0時) (レス) id: 3e63f40173 (このIDを非表示/違反報告)
chi(プロフ) - 泣きました。そして話の中でのことすごく分かります。友だちに話の内容的なことを言われたばかりでした。すごい!と驚きました。 (2017年2月20日 0時) (レス) id: f8c9543924 (このIDを非表示/違反報告)
有咲(プロフ) - 初めまして。もう、毎回じぇにーさんにはキュンキュンさせてもらっているか、涙腺崩壊させてもらってます。遠回しな恋物語、なかなかくっつけさせない感じ大好きです♪これからも、頑張ってください!! (2017年1月8日 16時) (レス) id: fd3021356a (このIDを非表示/違反報告)
杏離サマ/@ラ(プロフ) - はじめまして。すっごい感動していつの間にかぼろぼろ泣いてました。次の作品も楽しみにしてます! (2016年12月18日 10時) (レス) id: bb5adfcd27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2016年12月8日 23時