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手越さんが楽しそうに言う。
「ほら、これ」
指差す先を見たら、文芸誌の新人賞のページ。最終選考の候補の中に「加藤シゲアキ」の文字。
「……え……」
「小説家になりたい、って加藤さん言ったことなかった?」
「なかったよ……そんなこと一言も……」
「言わなそうだよね。かっこつけだもんね!作家になって、本が出版されてから、実は……って本を差し出す予定だったんだろうね?」
「……そんな…」
「ある程度貯金できたから、書くために仕事やめて、時間の融通きくようなバイトしてたんじゃない?ほら、バイト用の履歴書」
「……」
言葉にならない。
手越さんが続ける。
「Aちゃんが、仕事辞めたいって泣いたあたりでね、加藤さんはもう新人賞に応募してたの。迷ってたよ。Aちゃんのこと養うには作家じゃまだまだ無理だって」
「………」
「結果、新人賞は、だめだったみたい。でも最終選考に残ったのを見ててくれた出版社があって」
「………」
「すこし直して、うちでぜひ出してみませんか、ってね。さっきのカフェで会ってたおねーさん、出版社の人」
「……え…」
「だからそれに賭けたみたいよ。仕事をやめて、ずーっとカン詰め」
でもそれは。
私より夢を選んだってことだ。
他の女じゃなかったから、まだいいかもしれないけど。
どっちみち終わりだったんだな。
夢を叶えたい時に、足を引っ張るネガティヴな彼女なんてフェードアウトされて当然だと思う。
自分のことで精一杯で。
シゲのことを思いやる余裕もなくて。
でも、もしかして。
あそこで私が辞めたいって泣かなければ、打ち明けてくれたかな。
夢を叶えるところを、そばで見られたかな。
「2人の課題はね、そこにあんのよ!」
急に手越さんが大きな声で言うからビクー!ってする。
「……課題?」
「そう。2人とも本心を言わずに、自分の世界で自己完結してるでしょ。なんでかっていうと自信がないから。愛されてる自信」
「……」
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ゆっちゃん - もうスッゴい感動です!いつの間にか涙腺崩壊してました(;つД`)またこのような作品が読みたいです! (2018年4月27日 0時) (レス) id: 690f139b43 (このIDを非表示/違反報告)
LOVE - 超感動で泣いてしまいました。マジ感動作。今回みたいな感動作また作ってください! (2017年3月31日 0時) (レス) id: 3e63f40173 (このIDを非表示/違反報告)
chi(プロフ) - 泣きました。そして話の中でのことすごく分かります。友だちに話の内容的なことを言われたばかりでした。すごい!と驚きました。 (2017年2月20日 0時) (レス) id: f8c9543924 (このIDを非表示/違反報告)
有咲(プロフ) - 初めまして。もう、毎回じぇにーさんにはキュンキュンさせてもらっているか、涙腺崩壊させてもらってます。遠回しな恋物語、なかなかくっつけさせない感じ大好きです♪これからも、頑張ってください!! (2017年1月8日 16時) (レス) id: fd3021356a (このIDを非表示/違反報告)
杏離サマ/@ラ(プロフ) - はじめまして。すっごい感動していつの間にかぼろぼろ泣いてました。次の作品も楽しみにしてます! (2016年12月18日 10時) (レス) id: bb5adfcd27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2016年12月8日 23時