Crystal _ 虹彩の彼方 ＿

同じ席 ページ3

実際に
私が彼
"山下健二郎",…に逢ったのは

フラレた日からおよそ1週間が過ぎた頃＿だった

ランチを取るために独り、あのカフェへ向って
そして
独りでメニューをなんとなく覗き込んでいたら

『相席イイっすか？』

頭上からそんな声が降ってきて
見上げたらそこに彼がニコニコと微笑っていた


相席…？

この時間、そんなに混雑してた…っけ？

そう思いながら店内をキョロキョロする私に
彼は臆することなく、そして躊躇うこともなく

『席はいくつも空いてるんすけど俺独りで飯食うの苦手なんすよ…』 って言った

……はい？

間違いなくこれが彼に対して思ったいちばん最初の感情

そしてもうひとつは
“なんだこの人…" そんな感情(笑

_変な人
_不思議な人

そして、こうも思った

これって新手のナンパだったりする…？(笑


『イイっすか？』＿

頭の中でごちゃごちゃ考えてる私に
笑いながらも畳み掛けるように問いかける声

…ダメ…？…ではないけど
…良くもない…って時はどう答えるべき？

なんてまたぐちゃぐちゃ考え始めていたら

彼は
『お邪魔しまーす!』私の答えなんて待たず

"今日のオススメセット"のトレイをゆっくり私の対面側に置いて

"今日すごい天気イイっすよね〜" って
のんびりとテラスの方に瞳を向けながら座った


…結局
何も答えないまま相席になっちゃったな…

なんて。ぼんやり思う私に

『俺もね、この席やったんすよ…2年近く付き合うてた彼女にフラレてもうた場所…』

彼はそう呟いてから

『なんで、俺とお姉さん、この席でフラレたもん同士仲良くしましょ？』ってにっかり笑った

そして

フラレたばかり、とは思えない太陽みたいな笑顔で

『俺、山下健二郎っす、お姉さんは？』
なんて軽く自己紹介して私に問いかけるから

私は
なんか、つられてしまうみたいにして

「…木村梨香…です…」って答えてた



いろいろ聞きたかったコトはあったと…思う


_なんで、私がフラレてたのを知ってるの？
_なんで、私に構うの？

そして
__なんでアナタはフラレてしまったの…？


だけど

美味しい珈琲と
穏やかな日差しと。

彼の次々に溢れてくる話題と

それから
太陽みたいな彼の笑顔で

そんな質問は特に大切な事じゃない…気がした


関西弁で話し続ける
彼の話に、少しだけ時間を預けていたい…って

なんか。
それだけしか感じなかった


それは
…寂しかった心に

彼の存在とその笑顔が少しだけ
…暖かかったから…なのかも知れない……

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