Crystal _ 虹彩の彼方 ＿

浮き彫りになった答え ページ15

亜嵐が
せつなそうな瞳と声で
"今日は帰したくない"…そう云ったのは

私と亜嵐が正式に付き合い始めて
半月くらいが過ぎた金曜の夜_だった

私は
そんな亜嵐の妖艶な誘いに

あぁ、ついにこの日が来たんだ…って。どこか少し怯えた

_1つの線を越える夜_

そう
"体と体を重ねる夜"

それはきっと日頃は心の片隅に隠されている
すべての本音が浮き彫りにカタチを現して

すべての"本当"が始まっていくボーダーラインだと思っていたから…

だって私は
"何も知らない子供"じゃない

この夜が最後になってしまうコトもある…って
そんな残酷な事も知っている…

今までだってお互いに "愛してる" そう繰り返しながら朝まで貪る様に求め合っても

朝になればまるで夢幻だったみたいに消えていく…なんて事も何度だってあった

だから私は
"体と体を重ねる事"はつまりそういうモノ…
なんだと割り切ってしまってるのかも知れない…

少しだけ哀しい事だけど…

だから

私は「…うん…」 なんて亜嵐の誘いに頷きながら心の中は "消えて行かないで" そう願った

亜嵐が消えてしまったら
立ち直れなくなる所まできっと好きになってた…

今までの経験で
体と体を重ねる事は…"危険な賭け"…に変わってた

私にはもう

純粋に好きだから_とか
純粋に相手を感じたいから_とか
そんな理由で出来る事ではなくなっていた


重ね合う唇は次第に深くなってシーツの波に落とされて

愛しい_と想うから目を綴じた

肌を撫でる指先も
熱い唇も.身体中の熱も "愛しい" と思った

1つになれる事には "嬉しい" と思った

けど "怖かった"

怖い…って思ったら
何故か山下さんの笑顔が不意に浮かんで

だから
声が枯れてしまうくらいに"亜嵐の名前"を呼んだ

亜嵐の素肌に溺れて
意識なんて飛んで、ぐしゃぐしゃになって
必死で亜嵐の名前を叫んでたけど

…頭の中には山下さんが浮かんでた…


だから

『…梨香?…どうして泣いてんの…?』

亜嵐の指先がそっと涙に触れた時
言葉はなんにも出てこなかった…出せなかった…

自分でもなんで泣いているのか…解らなかった…

答えられない事が切なくて
私は救いを乞うみたいに亜嵐に手を伸ばした


"体と体を重ねる事は本当の始まり"＿

そんなふうに思ってた私に浮き彫りになった本当の答えは

"まだ山下さんに揺れている自分自身"と
亜嵐に "逃げている" 私だった


亜嵐の指先は
そんな私の頬の涙をそっと拭いたけど

私はそんな優しい指先が痛くてたまらなかった

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