見送りのない帰省 ページ28
『…気を付けて帰れや?…』
昨日と同じ
明け方にはまだ程遠い時刻。
キャップをきゅっと被りながら健二郎はわしゃわしゃと。
私の髪を撫でて…そして寂しそうな顔で笑った
それは帰省日
…私が福岡に帰る日の朝……
やっぱり私は最後まで "帰りたくないよ" とは言えなかった
健二郎の大きな手のひらでわしゃわしゃと髪を撫でられながら
寂しい。…そんな気持ちと格闘しながら
うん。って
健二郎も体には気を付けてね…って
最後まで
本当に最後まで笑おうと必死だった
口を開いてしまえば弱音ばかり零れそうで
だから私は一生懸命にニコニコした
はぁ…
1つ溢れたのは健二郎の溜息で
私がそっと見上げたら健二郎は寂しい顔でなんにも言わずに私をぎゅっと抱き締めた
それだけで伝わってきた
…帰したくない…そんな健二郎の心の声…
そして解った
健二郎も我慢してくれているんだ…って…
だから私はそんな健二郎の背中に
おんなじようにぎゅっと腕を廻した
…帰りたくないよ…。そう想いを込めながら…
キスは…しなかった
それで良いと思った
キスしてしまえば帰れなくなりそうだったから
少しのあいだ
なんにも言わずにただ抱き締めあって
それからゆっくり健二郎は私から剝がれた
剝がれてから
"元気でな…また連絡するから……" そう笑った
聞かなかった
これから先のコトなんか何も聞かなかった
それでもいい。…それもそう思った
私の想いと
それから健二郎の想い
なんにも言葉に変えなくてもおんなじだったから
そして "行ってきます"と "行ってらっしゃい"
これからしばらく交わせないから
私は一生懸命に見送った
_行ってらっしゃい_
ガチャリ
小さく音を立てて健二郎が出て行ったあと
やっぱり涙は流れてしまった
けど
その涙は哀しくてやりきれない涙…じゃなかった
寂しいけれど
哀しいけれど
失恋の涙。とか 胸が痛くて流す涙。とか
そういうモノとは少し違ってた
だから思っきり泣いて
準備を調えて
キャリーケースを押しながら私も外に出た
"鍵は預かっといて"
健二郎が言ってくれたから
ポーチの中.
"鍵2号"として
返さなかった前の部屋の鍵といっしょにしまった
1歩ずつ。
空港へ…
ううん。福岡へ向かい出す足音
見送りはなかったけど平気だった
23歳別れの朝
私は
"次に健二郎に逢えるのはいつになるんだろう…"
そんな事をぼんやり考えながら
空にスーッと走る飛行機雲を見上げていた
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梨香(プロフ) - にゃりんさん» あと。楽しんでくれて本当にありがとう…この作品は私にとってSpecialなので褒めてもらえるとホッとするよ (2019年8月28日 18時) (レス) id: 64c500100f (このIDを非表示/違反報告)
梨香(プロフ) - にゃりんさん» いひひ。最後はどーなるのかなぁ(笑)…女の子が夢中で健二郎を好きなコトと情景がいい塩梅に描けてたら嬉しいな…☆ (2019年8月28日 17時) (レス) id: 64c500100f (このIDを非表示/違反報告)
にゃりん(プロフ) - 梨香さん» なんかね、恋愛に純粋だった頃を思い出すね。にゃりんぐらいおばちゃまになってから読むと心が洗われるね(笑) 日記っぽく書いてるから余計かな〜。終わりは日記調じゃない方がよりリアルかも! なーんて偉そうに言ってみたけど、つまりは楽しく読んでます(爆) (2019年8月28日 17時) (レス) id: 71dba2f90e (このIDを非表示/違反報告)
梨香(プロフ) - にゃりんさん» にゃーちゃんだからこそ聴きたい!この作品どんな? (2019年8月28日 12時) (レス) id: 64c500100f (このIDを非表示/違反報告)
にゃりん(プロフ) - 梨香さん» なるほどね〜♪等身大のお話だからリアルなんだね!!それを踏まえてもう一度読みなおそーっと(笑) (2019年8月28日 12時) (レス) id: 71dba2f90e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梨香 | 作成日時:2019年8月27日 11時