REAL _最初で最後の恋_

涙の指輪 ページ32

それでも当たり前のように

私達の間には "離れる" というリアルがそこにあった

健二郎は東京に戻らなきゃいけなかったし
私は福岡に残らなきゃいけなかったし

そして私の目の前にはやっぱり

"三代目" と "芸能界"

そんな名前の壁が大きく大きく建っていた



健二郎を乗せて
東京に運ぶ飛行機の時刻まであと…

…そこにはもう僅かな時間……



寂しさのせいで無口になってしまう私と

そんな私を少しだけでも元気付けようとする健二郎


だけどワガママなくらい健二郎が好きな私は
健二郎が優しければ優しい程.寂しかった


別れがつら過ぎる私と
別れまでの時間を笑って過ごしたい健二郎

そんな対極な2人の間を流れる時間は

どこまでもどこまでもぎこちなかった


『ほら。こっち向け…』「いやだ…」

ははっ 『なんでやねん…こっち向けやって』


「いやだってばｯ‼」


そう言った私の声は寂しさを隠すのに失敗して

怒ったように響いてしまったから

だから私小さく 「ゴメン」って。
そう言うので情けなくも精一杯だった


…やだよ。やだよ…やだよｯ


健二郎の腕を掴んで泣いてすがりたい

そんな衝動は無理矢理.抑えた


今夜からまた始まる

福岡↔東京 そんな距離


一昨日まで当たり前だったそのキョリは

健二郎の優しさと体温と声と存在を確認できる場所に居る今の自分には

まるで世界の端と端…それくらいに感じた


『頼むからこっち向いて…』


そう言う健二郎の声は時間の経過と共に小さく

そして少しずつ頼りなく細くなっていくから

私はその分また寂しくなってまた 「やだ」って

そう返した


健二郎はそんな私に困ったみたいに微笑って

『…ん』って握りしめた拳をそっと私に突き出した


そして私の手のひらに落とされたモノ

…それは
とても綺麗な指輪…だった


『ホンマはちゃんと渡したかったけど…もう時間…や.な…』

健二郎がそう苦く笑って言った時計はもうサヨナラの刻。


思いっきり後悔した

素直に寂しいって
素直に行かないでって

そう言えなくても

それでも素直に振り向く事くらいは出来たのに

それをしなかった自分に思いっきり後悔した


くしゃって髪を撫でる手のひら

私を抱き締めて"またな" 笑う顔

そして

外で待つタクシー



行かないで! 叫びたかった

泣いて子供みたいに掴みたかった



遠距離に戻る刻

あの頃オモチャみたいな指輪をしていた健二郎がくれた指輪は

キラキラ

哀しい程に光を放つホンモノの指輪だった…

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