一杯目 ページ2
お洒落なジャズの曲が流れている静かな店内に、扉が開くのと同時に明るい声が響きわたる。
「こんにちはー」
「おー！ナナミ、いらっしゃい」
ナナミと呼ばれた彼女は周りを見渡し、オレが席に座っているのを見つけると、笑顔で駆け寄ってきた。
「こんにちは、ウェイン」
「ハイ、ナナミ、いい笑顔だね」
ナナミはオレが手に持っているものを見ると、笑顔を固まらせた。
(あぁ、これか…)
オレはお酒が入ったグラスを傾ける。
すると、結露してできたのであろう雫が垂れた。
「ウェイン…」
「うん、……ちょっとそういう気分で」
少なくなってきたグラスの中のお酒を足す。
「ウェインってお酒、飲めるんだね。」
ナナミが微笑する。
「え？なにそれ(笑)」
「飲めないと思ってた」
「そっか…」
オレはつくった笑顔を向ける。
お酒が回っているせいか、短い返事し
か返せない。
「……お酒、辞めてたんだけどね…。」
独り言のように呟く。
グラスの中の氷がカランと音を立てて割れた。
「ウェイン」
「うん？」
「一個質問してもいい？」
「ナナミなら大歓迎さ、どうぞ？」
オレはグラスを持ち上げ一気に飲む。
ナナミはオレの方を向き、一呼吸置いて言った。
「どうして…またお酒を始めたの？」
「………………」
何も答えられなかった。
「……どうして、………だろうなぁ…」
やっと絞り出した声はとても小さかった。
それは、ナナミに対してではなく
自分自身に対するものだった。
本当は知っている。
どうしてお酒に溺れてしまったのか。
「ウェイン…」
机の上に雫が落ちていた。
それはグラスから落ちたものではなかった。
(あぁ、オレ、泣いてるのか。)
他人事のように思った。
一度溢れてしまったものはとめることができない。
あのときの伝えられなかった想いが涙となり、ウェインの目からこぼれ落ちた。
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作者名：立花 山葵 | 作成日時：2020年12月14日 22時
