連れていかれないように/fkr ページ34
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薄暗い部屋をじめじめとした暑さが襲いかかる。私はあまりの湿っぽさに目を覚ました。時計はこの部屋にないため、窓から時間を予測する他なかった。
空の色から察するに、どうやら今は早朝らしい。鳥のさえずりを聴きながら、私はただ寝返りを打つことしかできなかった。
「あ、れ。ふくらさんがいない? 」
それに気がついたのは数回ベッドの上を転がってからだ。いつも私の背中にぺったりとくっついて寝ていた彼がいない。おそらく早朝であるというのに彼は何をしているのだろうか。
「それにしても何もすることがない……」
いつもはふくらさんが先に起きていて、私が起きる頃には自由に行動できるのだが。私を自由にしてくれる張本人がいないためどうすることもできない。私は大人しく目を瞑ることにした。
そうしてどれくらいの時が経っただろうか、ガチャリ、という音と共にドアの開く音が聞こえた。重い体を起こして顔を上げる。
「ふくらさんおかえり〜」
「あ、起きてたんだ?おはよう」
「とりあえずこれ外して」
慣れた手つきで鎖を外すふくらさん。どうやら朝ごはんを作っていたらしく、開いたドアの向こうから美味しそうな匂いが漂ってきた。
「お腹空いたー」
「これ外したらね」
「あー、また痕ついてるし……」
「ほんとだ。……はい、外したよ」
鎖が外れたことで少しすっきりした。手首にはクッキリと赤い痕が残ってしまっていた。
「ねえ、いつになったらこれ付けなくていいの? 」
「うーん、外すのは無理かな」
「鎖以外の方法考えてよ、これ結構痛いんだから」
彼は私が寝てる間にどこかに行ってしまうのが怖いのだろう。きっとそれが理由で彼が寝る前に忘れずに私を拘束するのだ。
「あはは、ごめんごめん。そのうち考えとくよ」
「絶対考えないでしょ」
しかしおかしな話だ。私がいなくなるのが嫌なのであれば、私を家に縛ってしまえばいいのに、何故かふくらさんはそれをしない。私が寝ているときにだけ鎖を付けるのだ。
「気になったんだけどさ、ふくらさんが仕事してる時に私がいなくなるって思ったことないの? 」
「だってAは絶対逃げないでしょ?でも夜は何かに連れていかれるかもしれないからさ」
そう言う彼は、見えない何かにおびえる子供のようだった。その恐怖を少しでも和らげたくて、私は彼をそっと抱きしめた。静かな部屋に雨の音だけが響いた。
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お久しぶりです。三ヶ月ぶりくらいにサイトを開きました。
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匿名 - 偶然こちらの作品に出会い一気読みしました、どれも個性強くてすごく好きなお話です…!動画外メンバーさんのお話が読めてとても嬉しいです。これからの更新を楽しみにしています! (2020年11月16日 23時) (レス) id: e8c8d904dc (このIDを非表示/違反報告)
空蝉(プロフ) - 反応遅れてすみません!めっっちゃ良かったですありがとうございました! (2020年4月25日 23時) (レス) id: c1259f568e (このIDを非表示/違反報告)
すずかぜ(プロフ) - いろさん» ありがとうございますっ!!!絶対かっこいいですよねわかります…… (2020年4月21日 15時) (レス) id: a1f34fb80a (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - ああ…初々しい好き…myhrさんの甘い顔とか絶対かっこいい…好きです… (2020年4月21日 12時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
すずかぜ(プロフ) - 空蝉さん» リクエストありがとうございます!もちろん書かせていただきますよ!!!初々しいのいいですよね〜 (2020年4月21日 11時) (レス) id: a1f34fb80a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すずかぜ | 作成日時:2020年4月16日 19時