少しズレてる人。【短編集】

ペトリコールよありがとう ページ30

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「実は、彼女に振られちゃって」

「結構長くてさ、すごいショックで」


　へえ、彼が振られるだなんて意外だ。どちらかと言うと砂川さんは選ぶ側だと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。


「俺、ダメなやつだな……」
「……砂川さん、そんなに自分のことを責めないでください」


　そうだ、確か携帯とあともう一つ、持ってきていたものがあった。自分の傘を砂川さんの方へ傾けて、私は砂川さんにタオルを渡した。

「風邪ひいちゃいます。これ、使ってください」
「Aさん、雨が」
「私は厚着してきたので大丈夫です。ほら使ってください」

　実際そうでもないが、私よりも砂川さんの方が冷えているはずだ。砂川さんがタオルを受け取ろうとしないので、私は強引にタオルを押し付けた。


「風邪ひきたくないでしょ？ 」
「……ありがとうございます」


　頭を乾かす砂川さんは、先ほどよりも表情が晴れたような気がする。

　しかし意外だ。砂川さんはもっとチャラチャラしたイメージがあったが、どうやらそうでもないらしい。今までの印象が全てひっくり返ったような感覚だ。

「すみません、洗って返します」
「いいんですか？ではお願いします」
「あの、本当にありがとうございました」


　砂川さんが笑顔になった。よかった、少しは立ち直れたようだ。
　空を見上げると先ほどまでの雨は何処へやら、ただの青空が広がっていた。


　後日、二人とも思いっきり風邪をひいたのは別の話だ。

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