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「雅！雅！どこにいるのだ！」
屋敷中に大声が響き渡る。ああ、お父様だわ。
そして、今、私を呼びつけるのなら、要件は決まっている。
「お父様がお呼びですよ、姫様……？」
女房(使用人)の声も耳に入らない。お父様の話を聞くのが、たいそうおっくうで仕方がない。
「雅！広間にいたのか！」
だれかがお父様に教えてしまったのだろう。ありがた迷惑な話ね。
「お、お父様……」
「雅！帝に文は出したのか！ 気に入ってもらえるような文を！」
やはりそれか。必死なのはわかるけれど……
一応はお出しした。けれど、快い返事が返ってこなかったから、もう送ってない。
「風運ぶ 君が噂を 聞きつれば 胸の中にも もやの渦巻く」
「風があなたの噂を運んでくるのを聞くと、胸の中にもやが渦巻くように苦しい……良い歌とは言えんなぁ」
分かっている……私に歌の才能なんかない……他の姫君達と違って……。
「返歌は？ なんとあったのだ！」
「風運ぶ 我が噂をば あらねども 耳とき君は いづれを聞かん」
「風に運ばれるような噂はありませんが、耳の良いあなたは何を聞いていらしたのか(本当は何も聞いていらっしゃらないのでしょうね)」
うう……なんと苦しい言われよう……
だから、もう、やり取りなんてしたくないわけよ。
「お父様……帝の御心はつかめそうにありません。もう、勘弁して下さい」
「……ならぬ。分かっているだろう、雅」
「……はい」
私の名前は藤原雅。藤原氏の本家から、少し外れてしまった血筋。今、内大臣であるお父様は出世に必死。だから、私を帝に嫁がせて摂関政治を目論んでいるわけ。
けれど、そう簡単にはいかない。帝の愛を争う相手は何人かいる。しかも、全員が強敵。
左大臣の娘で、知的な薫子(かおるこ)。右大臣の一の姫。それに、上皇の娘で、美しいと評判の、宮子内親王。正妻はこの3人の誰かに決まっているから、帝も私に良い返事はくださらない。
私は普通の恋がしたいだけなのに……
「別荘に行きたいわ」
気分を変えたくてそう言った。
別荘とは、上級貴族が共同で使っている大屋敷のこと。もちろん、私のお父様は自分の屋敷を四つほど持っているけど、共同用の別荘もよく使う。
「別荘か。行こうじゃないか。帝様にも会えるかもしれんしな！」
夕暮れ時、秋風に吹かれながら、私たちは別荘へと向かう。
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清原諾子 - はじめまして、清原諾子です。歴史の中でも平安時代が一番好きで、この作品がすぐに好きになりました。これからも頑張ってください。 (2018年7月9日 7時) (
レス) id: c298dbb326 (このIDを非表示/違反報告)
藍城彩(プロフ) - はじめまして。藍城彩です。私は、平安の話は苦手なのですが、この話は引き込まれていきます。これからも、頑張ってください。 (2018年7月8日 17時) (レス) id: ecf7c6d4da (このIDを非表示/違反報告)
アサノ(プロフ) - はじめまして、アサノと申します。凄く魅力的な作品で思わず、引き込まれました。これからも頑張って下さい。 (2018年4月16日 0時) (レス) id: 2c5d1feb72 (このIDを非表示/違反報告)
作者より - いろいろありがとうございます。顔を見られたのは雅ちゃんの不注意、顔を見られても動揺しなかったのは、「帝の妃に」という教育方針のせいかな？なんて。すみません。頑張ります、 (2018年4月15日 21時) (レス) id: 8d3c83900b (このIDを非表示/違反報告)
ぺったんこ＠受験終るまで更新できません(プロフ) - (追記)現在のように、男性が不法侵入してただ体を強張らせるだけではなく、もっとドン引きさせても良いのかなぁ、と。。長々とｽﾐﾏｾﾝ・・・ (2018年4月15日 21時) (携帯から) (レス) id: 46235445be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ΨΨ | 作成日時：2017年10月4日 18時
