平安時代の物語 姫たちの雅な夜

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「茂仁！今、大丈夫ですか？」

梅壺の方から聞こえてくるこの声。間違いない。私が1番大切にしている梅壺の女御、内大臣の娘の藤原雅だ。

「雅…おいで、こちらに新しい着物を取り寄せてあるよ」

雅は扇で顔を隠しつつ、私の部屋にすうっと入ってくる。

「茂仁！薫子…藤壺の女御がお怒りですわよ？これを渡してくれと頼まれました」

雅が差し出してきた文を覗く。


行かむとす 君が言ひしに 待ちつるを
来ぬと知りせば 寝なましものを

行こうとあなたが言うから待ったのに
来ないと分かっていたなら
寝てしまっていたらよかったわ


「あーあ、これは相当お怒りですわね…宮子内親王の所へも行かなかったそうじゃないですの。昨日は何をしていたんです？」

雅のところに行こうと思ったのに、寝てしまったんだよな…。

「部屋で寝てたんだ。雅のところに行きたかったんだけどね」

「駄目じゃないですか。待つ女の身にもなって下さいませ。薫子と宮子様がどんな思いをしているか…」

申し訳ないのだが、今は雅のことしか眼中にないんだよな。

「雅...ごめんよ？」

「今夜は薫子のところに行ってあげて下さいませね」

雅に新調の着物を着せてやると、ありがとうございます、と小さな声でいい、

「それでは失礼いたします」

と、微笑んで部屋に戻っていった。





…どうするかな。
雅の父は今、内大臣。これを無理やりでもいいので右大臣にしたいのだ。雅が皇子さえ産めば、摂政にしてやれる。だが、薫子の父をなんとかしなければならないし…考えなければ。
今夜は徹夜だな。

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