あなたに 【牛島若利】

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今思えばあの考えは傲慢でしかない。俺はあいつを所有したいみたいだった。あいつが奏我に笑顔を向けるたび、心臓が一部焼かれるような痛みを伴った。腹が立つ、苛だたしい、嫌だ。だめだ。俺の方を向いていてほしい。
そして当の奏我がこの気持ちの名前を告げた。嫉妬。そんなもの味わったことなかった。だから、不用意に動揺した。だが、名前がつくと妙に身近なものにも感じた。医者が病気に名前をつけるみたいだった。そうして大葉に謝った時、あいつの心の底から安心したような顔を見た時、ひどく安堵した。そうして、あいつが傷ついていたことを痛いほど理解した。涙の膜が、大きな粒になって目尻からこぼれ落ちないように、必死に目を合わせた。出来れば、笑っていてほしい。穏やかで、健やかに。隠し事もしたくないし、されたくない。でも秘密なら少し共有していたい。ああ、あとなるべく隣にいてほしい。そうだ、俺の隣で笑っていてほしいんだった。他の誰かの隣じゃ嫌だ。俺のエナメルバッグにぶら下がっているジンベエザメのストラップだって、そう思っているはずだ。

あいつは本人の目の前で高らかに恋を語った。だから俺はそんなあいつを惜しみもなく恥ずかしい奴だと思った。なんなんだお前は。お前に大葉の何がわかって、好きだと伝える理由があるのか。というか俺と大葉の間にお前が入る余地なんてこれっぽっちも無かっただろう。なにがお前をそうさせるんだ。さっぱりわからない。だいたいお前はこの登場人物のように、大葉のために命を投げ打てるのか？本当に虫の好かない奴だ。うざったらしくて腹立たしい奴。出来れば叩き潰してやりたいが生憎あいつはバレーをやっていなかった。よかったな。
だから訊いてやった。好意とはなんだと。俺は絶対に答えられないだろうとたかをくくっていたが、あいつは案外腑に落ちるような答えを返して来た。
「その人のことを一番に考えて、大事だって想うんだよ！」
なんだか、そんなようなことを言っていた気がする。その人のことを一番に考えて、大事に思うこと。

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