3月1日 ページ19
「……いない」
「へ?」
「だから、いない。彼女はいない、中学2年の頃に別れたやつが最後」
思わぬ回答に、ほぅ……と息を吐く。
まさかこんなイケメンな人間が、彼女の1人作らずしてアルゼンチンにいるとは。
彼女がいないって、なんか……残念なイケメンだな。
なんて失礼なことを考えつつ、あることが引っかかる。
「中学2年の頃、ですか?」
「そう」
なら、このペアリングは?
このペアリングは彼女にバレたくないから、という理由で預かったはず。
預かった時は私が高二、つまり及川先輩が高三の時。
明らかに、矛盾する。
はてなマークがてんてんてん、と3つくらい浮かぶ私の顔を見て、及川先輩は吹き出した。
人の顔を見て吹き出すなんて全く失礼な人、とムッとする反面、やっぱり疑問は拭いきれない。
「なんでそのペアリング、高二の時にって思ってるでしょ」
「はい、凄く」
すると及川先輩はニマニマとしながらさっき握らせたペアリングを私の手に握らせて「返却不要」と呟いて。
「察しなさい、もう高校生じゃない。大人でしょ」
そう諭したあと、「ドリンクも飲みきったことだし、どっか他のとこ行こうか。そうだ、海とかどう?」と席を立って笑った。
これで察せないほど、私は鈍感ヒロインでもない。
花巻先輩の発言、及川先輩の性格。
色々総合して、私が引っかかっていたものが、ピースとなって全てハマった気がした。
顔に熱が集まるのを感じて、それを隠すように因縁のペアリングを太陽の光にかざす。
こうして見れば、随分綺麗なペアリングだ。
それはじっくり見たのが初めてだからか。
はたまた、たくさんの色と絡まっていた糸が一本の赤い糸になったからか。
「……私、及川先輩のぶきっちょなとこ嫌いじゃないけど、流石にぶきっちょ過ぎます」
「ははっ、ごめんね」
「話したいことが増えました。是非聞いて貰えますか?」
〈勿論。アルゼンチンまで僕のことを追いかけてきてくれたお姫様のご要望とならね〉
流暢な英語で流れるようにキザなセリフを吐く及川先輩に、心底から笑いが込み上げて。
あははっと盛大に笑ってやると「失礼でしょうが!」とまたデコピンされた。
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ワッフル☆ - 今までにないような及川さんの小説で見ていてとても温かい気持ちになりました! (12月11日 20時) (レス) @page34 id: 8ecee0a599 (このIDを非表示/違反報告)
美園(プロフ) - うぁ…好きです…好みすぎるお話でした… (2022年7月8日 18時) (レス) @page33 id: 04f1c58536 (このIDを非表示/違反報告)
しし - 素敵…色んな所をたらいまわしにされるRPGのようでとても楽しいお話でした…完結おめでとうございます。 (2020年10月16日 10時) (レス) id: 0787e6d0b1 (このIDを非表示/違反報告)
絢(プロフ) - 心温まるなんて光栄です(歓喜)私の中の及川さんの恋愛的なイメージがヘタレっぽいので、そのように動かして頂きました(笑) (2020年8月24日 21時) (レス) id: 2021c6a537 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - みんなの性格をすごくよくわかってらっしゃって、とても素晴らしいおはなしでした、、、!!!及川さんの少しヘタレな部分もあったりして思わず「クスッ」と笑ってしまう心温まる小説でした!完結おめでとうございます! (2020年8月24日 17時) (レス) id: fbb3dcafb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:絢 | 作成日時:2020年8月11日 16時