花束を添えて【d!】 (ページ6)

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夏の夜空に紫煙を吐いてページ6

syp.

「敷かれたレールを進むのも案外楽でいいですよ。」
涙を零す彼女を見たのは、後にも先にもこの一度きりだった。

彼女の目線の先にあるバタフライピーが、月明かりに照らされながらゆらゆらと揺れた。

もういつだったか覚えていない程、前のこと。
夏の暑い日に、彼女は東にある軍事訓練所の事務室で涼んでいた。
最初は新しい事務員さんかと思い、とりあえず挨拶をしたが、彼女は“ごめんなさい、私事務員さんじゃないの。”とケラケラと笑いながら言った。
その後、少しして俺が幹部だと思い出したのか“今日は休暇を頂いたので……”となにやらモゴモゴと言い訳を始め、事務員さんと共に笑ったのをよく覚えている。

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そんな彼女の笑顔を亡くした戦争から3年という月日が経ったが、生前彼女はよく“私が死んでも墓参りには来ないでよ。”と言っていたのもあり、俺は一度も彼女の墓へと出向いたことがない。

葬儀ですら途中で抜け出す程、彼女の死に興味が無かったのかもしれない。

あの日、スコープ越しに見た夕焼けと同じ明るい黄色の交じった朝空の下、俺は部屋の窓から煙草の煙を吐き出している。
こうして窓辺でタバコを吸うと、隣の部屋に住む彼女が話しかけてくれる時があったな。なんて思い出す。

「あ〜……煙草が美味しい。」

いつか返事が来るその日まで、何本でもタバコを吸うと誓いながらそう呟いた。