無邪気な深淵と長女７ ページ19
「…おい、楽しんでいるだろう」
デリザスタが輸血を始めてからしばらく経ち、先程からグチュグチュと音を立てる様子にドゥウムは少しの怒りを混ぜて問いた。
わざとリップ音を鳴らしながらデリザスタは唇を離し、ドゥウムの方を向く。離れた舌には、銀の糸が引いているようだ。
「ん……え〜せっかくAとちゅーできてんだから仕方なくね？」
「…血はちゃんと飲ませているだろうな」
「そりゃもちろん、つーかこいついつ起きんの？」
結構血ー飲ましてるはずなんだけどなぁ〜と、デリザスタは嬉しそうに笑っている。
やはり貴様も大概だろうと思い返すドゥウムは、Aの口元を手で拭うデリザスタに呆れ、黙ってその場を離れた。
「…ん、ぅ…」
「お…、起きたー？だいじょぶか？」
もう一度輸血をしようと思った瞬間、Aから小さな唸り声が聞こえ、複雑な感情になりつつもデリザスタはAを心配した。ゆっくりと瞼を開けたAの瞳は、虚ろながらしっかりとデリザスタを捉えている。
「……おにぃ、さま？」
「…おー、デリザお兄様だぞー」
まだ青白い顔をしているが、一応応答ができている様子に安心しつつ、不安そうなAに笑顔を見せた。
Aの手が自身に伸びていることに気づくと、すぐにその手を握ってやる。
「う…ふぁーみんは…？」
「ファーミンはドゥウムが…あれ、いなくなってるし」
先程まで近くにいたはずのドゥウムの姿が見えず、デリザスタは辺りを見回す。
するとAが泣くような声を出して、ぎゅうっと自身の手を握りしめた瞬間
「…っうぅ、…おにいさまぁ゛〜〜！！」
ダムが崩落したように、Aは泣き始めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 114人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そらいろ | 作成日時：2024年3月13日 19時
