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「でもちょっと時間がかかりすぎちゃって、親父が頼んだ業者が来週来るの」
ご両親はこちらにいらっしゃらないのかな、なんて思ったけど、口には出さなかった。
ここでひとりでおばあちゃんとおばあちゃんのおうちを守ろうとしてる増田さんが、そのことに悲しんでいるのは明らかだった。
でもだからって文句を言ったりはしないところが、すっごく増田さんだなって思った。
「サービス付きの住居だから、マンションの一室みたいなとこでさぁ、すごい綺麗だった!家具とかはほとんど備え付けてあったから、ここにあった小さい棚と気に入ってる服と鉢植えちょこっとだけ持っていったの」
「そうだったんだ……」
ああ、増田さんの明るい様子に反して涙が出ちゃいそう。
泣いちゃうかわりに、鼻水をすすりながら私は言った。
「……お手伝いします」
「いやいいよ、できるの平日だし。そんなことよりお願いがあるんだけど」
「うん」
「……ここの鉢植えたち、すこしもらってくれる?」
「……いいんですか?」
「うん、よかったら」
ごはんのあと、いつもより丁寧におかたづけをした。いつもの食器たちはまた元通り食器棚に戻したけど、どこにいっちゃうんだろう。業者さんっていうのは引越し屋さんじゃなくてお片付け屋さんなんだろうなぁ。
何も聞けないまま、鉢植えをいくつか選んだ。
カランコエと、りんどうと、アジアンタムを選んだ。
どれもこんもりして、ぴちぴち元気。
「ありがとうございます、こんなにたくさん。綺麗なものを」
「ううん、ここにあっても片付けられちゃうから」
「……」
「よし、送るよ。遅くなっちゃったね」
「……でもこのあともしかしておかたづけするでしょ?ひとりで帰れるから大丈夫」
「……送らせて?たぶん、A送っていけるの最後だと思うから」
「……」
「……ああ、違う違う、この家から送るのがってことね」
しんみりしちゃった私を、不安にさせたと勘違いしたみたいだった。
増田さんは、いつだって根っこのところが優しい。
玄関先で靴を履いたあと、増田さんが振り返ってかわいいキスをした。
なんかいつもより神聖な気持ちになって、増田さんのゆるゆるしたTシャツの裾をきゅっとした。
きっと今繊細に心を揺らして、悲しんでいる優しい増田さんを、おばあちゃんの大事な大事な貴久さんを、私の生きる限りお守りします、なんて。
誓いのキスみたいな気持ちで。
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あやぽにょ - 更新ありがとうございますm(_ _)mいつも幸せなります!!夢で増田さんに会いたいです、。。 (2018年10月29日 21時) (レス) id: 1cc16aeb13 (このIDを非表示/違反報告)
どみ - 最高に好みのお話です!そして読みやすいです!ありがとうございます! (2018年8月16日 22時) (レス) id: a1e09fad41 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - 追い付きました。はぁ、キュンキュンします。私も生きていられますでしょうか?こちらこそ、ステキなお話ありがとうございます。続きを楽しみにしています。 (2018年7月11日 17時) (レス) id: d177f1dbfb (このIDを非表示/違反報告)
そらまめ(プロフ) - 毎回読むたびに全力で☆を押したくなる…押して「既に投票済みです」と拒否られてしまうのを繰り返してます笑ほんとうにステキな作品ですね。 (2018年7月9日 8時) (レス) id: 5b21419bc4 (このIDを非表示/違反報告)
あやか - 素敵です(´;Д;`)!!!だきしめられたい...まっすー(´;Д;`) (2018年7月9日 6時) (レス) id: 1cc16aeb13 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2018年2月18日 21時