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着信：平野紫耀
心臓の音が早まっていることには気づかないフリをして、
冷静に携帯を耳に当てた。
〈 ……もしもし 〉
〈 あ、俺、起きてた？ 〉
〈 寝ようとしてた 〉
〈 俺は起きてんのよ 〉
〈 ……知らないよ 〉
〈 ごめん、そっち行ってもいい？ 〉
〈 は？今から？ 〉
〈 うん、〉
馬鹿なの？電話が切れてベランダには紫耀の姿。
てかもう準備してたでしょ、飛び越えて真横の部屋とか勘弁してほしい。
学生時代はよく勝手に部屋の出入りをしてたもんだ。
年頃になってやっと許可を取るようになったけど、
私が拒否出来ないのを知っていて、いつも紫耀は私を試すんだ。
「寒い！早く！」
「ちょ、急に来ないでよ！」
「はぁ、さっむ！日本は寒いな！」
「……なんなの、」
窓をガンガン叩いて早く開けろってうるさくて、
私の気持ちなんて無視して勝手に部屋に上がる紫耀。
「慎太郎は？」
「出張でいない」
「……ふぅーん」
「……どうしたの」
伏し目がちに俯いて、口を開く。
「俺、ダンス辞めようかなって思ってんだ」
「……え？……なんで急に」
「なんかやる気なくなっちゃった」
ソファに座り、フッと笑って他人事のように話し出す。
たまに見せるその寂しそうな表情から目が離せなくなるんだよ。
「あんな頑張ってたのに……」
「俺のダンスなんか誰も興味ないよ」
「……私は好きだったよ、紫耀のダンス」
「……なんで？」
「紫耀にしか出せない雰囲気とか、難しいしよく分かんないけど伝わってきたの。その人の気持ちが届くっていうか、」
本音が嫌でもスラスラと出てくる。
楽しそうに踊る姿にはいつも釘付けになってた。
だから応援するしかなかった。
ロサンゼルスに行って夢を叶えに行った紫耀の背中を
押してあげることしかできなかった。
「へぇ、そんな風に思ってくれてたんだ？」
「……ずっと見てきたもん、」
「…………」
「そんな簡単に辞めるなんて言わないで」
私がどんな思いで紫耀を見送ったと思ってるの？
勝手にいなくなって、勝手に戻ってきて、
勝手にダンス辞めるなんて、……そんなの、ずるすぎる。
「……あーあ、ダメだね、俺」
「え？」
「Aにそう言って欲しくて期待してたのかも、」
「………え、」
「つーか、全く祝福とかできねーわ、やっぱり」
………言わずとして分かってしまうのは、ただの自惚れでしょうか。
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作者名：詠夢
| 作成日時：2021年2月7日 7時
