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思い返せば、この包丁が使われたのはもう何週間前になるだろうか。たしか、最後に使われたのはあいつがこの家に来た時のことだ。あの時、彼女が作ったものは、なんだっただろうか。キャベツと豚肉を味噌で炒めたものだったと思う。白米も炊いてくれた。おいしかった。自炊はほとんどしないからこそ、おれの家にあるキッチン用品が使われるのはその機会だけだ。そして、それが最後ということは、それくらい彼女がこの家に来ていないということを表していた。ぐちゃぐちゃになりかけた思考を洗い流すように、包丁とまな板についた泡を洗い流す。そろそろ10分くらい経っただろうと思い、火をつけた。最初は弱火、グツグツと煮え始めたら火を強くしてヘラで混ぜながら煮込む。2〜30分で水分が飛ぶように、火を強める。あとはお好みの柔らかさになってら火を止める。お好みの柔らかさとはなんだろうか。ジャムなんて普段食べないからわからなかったので、水分が完全に飛んだところで止めた。火を入れて姿が変わっていくジャムを見るのは楽しかった。ふつふつと煮詰められている桃を見ていると、その瞬間のおれのすべての感情も一緒にどろどろに溶けていくような気がするのだ。
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