空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ43)

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99.完熟した恋【lntn】ページ43

ぶに、と俺の指に触れた物体を、俺は最初、肉のようなものだと思った。鼻が曲がりそうなくらいの甘い香りが漂って、指には甘い汁が付いて、その時にようやく俺は、桃だと気がついた。
冷蔵庫の中に放置されていた3つの桃は、この間、彼女から「食べたい」とお願いされたて買ったものだ。けれどそれが消費されずに残されているということは、果物が腐りそうになるくらいの期間、あいつがこの家に来ていないことを示している。
おれは特別桃が好きというわけではない。だから、ひとりで桃3つを消費はできない。1日に3つも消化するなんて、絶対に飽きる。でも腐る前には食べてしまいたい。
「……ジャムでも作るかあ」
なんでだよ。その時の俺に突っ込むとしたらその一言だけだ。けれどその時のおれは「この桃でジャムを作ろう」という思考に支配されていて、どうしようもなかった。
まあ冷静に考えると、ジャムというものは保存食なので、腐りかけの果物にはぴったりだったのだけれど。

出来上がったジャムは、まあ普通に美味しかった。甘酸っぱくて、うん、普通のジャムだ。パンとかにつけたらおいしいのだろうか。それにしても、作り過ぎてしまったと反省した。こんな量、一人で消費し切る前に腐らせてしまいそうだ。そもそもジャムなんて食べること、ほとんどないし。
そんなことを考えて、その次に俺の脳内に浮かんだのは、Aをここに呼んで一緒に消費しようということだった。多分、普段のおれだったら、迷惑じゃないかとか引かれるんじゃないかとか余計なことまで考えてしまいそうだったけれど、料理に疲れた頭ではそんなことを考える余裕はなくて、おれは何も考えずにAに電話した。

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