71.わたしのためだけのモーニングティー【rbr】 ページ5
「おはよう」
「おはよう。今日は元気そうやな」
ここはわたしを守るための優しい監獄だ。
わたしのために閉じられているカーテンも、わたしのために用意されている紅茶も、わたしのためにそばにいてくれる彼も、全部がわたしを守るための要素だ。
外の世界はわたしにはつらいことが多すぎた。だんだん息をすることもしんどくなって、ネットで死に方とかを調べるようになって、そろそろ本当にまずいなってなったときに、彼がわたしを助けてくれた。
ロボロは、わたしよりも先に起きて、朝ごはんを作っていたようだった。
「パンには何塗る？」
「いちごジャムがいいなあ」
「わかった」
今日の紅茶はなんだろうか。あいにく、わたしは紅茶に詳しくない。そもそも、前まではそんなことすら気にしたことがなかった。ご飯は味がしなくて、お腹に入ってしまえば一緒だと、ずっと長い間思っていた。
だけど、どうやら、いまは違う。
甘いものがおいしくて、辛いものは痛くなって、苦いものは顔を顰めたくなって、そんな当たり前のことがわかるようになって、ご飯を食べるのが楽しくなった。
身体に悪くなりそうなくらい、砂糖を入れる。こんなことをしても怒る人はここにはいない。わたしが甘いものを好きだということも、最近知った自分の新しいことだった。
「あったかくて、おいしいよ」
「ほんま？よかったあ」
薄桃糸のエプロンを着たロボロは、安心したように笑った。それにつられるように、わたしも笑った。
今日のご飯は洋食みたいだ。昨日は和食で、味噌汁のネギがおいしかった。今日はスクランブルエッグとウインナーだった。
「ケチャップ、かけるとおいしいで」
ロボロがケチャップをわたしに差し出す。こんな風に食事を楽しめるようになったのはロボロのおかげでもある。
ロボロがわたしをストレスから守ってくれて、家賃も払えなくなるくらい憔悴したわたしを家に置いてくれて、仕事も家事もしなくていいって、そうやって甘い毒みたいにわたしをおかしくしてくれた。わたしはいま、常識からだいぶ外れたところにいる。けれど、わたしはそれで、いまが幸せだった。
「ねえ、ロボロ」
「ん？」
「おいしいね」
ゆっくりと噛み締める。それは確かに味がした。
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