空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ39)

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96.あるいは君のための楽園【3】ページ39

「ハッピー星ってどんなところだろうね」
「…………漫画の話？」
ソファに寝転がっているAちゃんの暢気な声が部屋に響いた。
ハッピー星？ハッピー星って何？
休日の昼間には似合わないような話題じゃないだろうか、Aちゃん。そんなことを思いつつも、多分Aちゃんが最近読んでる漫画の話なんじゃないかと勝手に予想すると、「うん、漫画の話」と答えを教えてくれた。俺の予想は合っていたらしい。
「ハッピー星、ねえ」
「全部ハッピーなのかな。ハッピー星に行けば、ハッピーになれるのかな」
ハッピー星について俺は何も知らないので何も言えないのだが、別にAちゃんは明確な答えが欲しかったわけではないのか、「アイス食べたくなった」と一言だけ言って、ソファから起き上がっていた。
「俺の分もちょうだい」
「うん」
Aちゃんのぺとぺとと小さな足音が聞こえて、そしてそれに着いていくように猫も駆けていく。「ぬこが来た」と呟いたAちゃんは戸棚からチュールを取り出していた。アイス2つとスプーン2つ、チュール1本を持ったAちゃんが部屋に戻ると、俺にぽい、とハーゲンダッツのバニラ味とスプーンを投げる。そして床の座っている俺の隣にAちゃんは当たり前のように座った。
「ほら、ぬこ、お食べ」
彼女はアイスは開けずに、先にチュールを開けて、猫に差し出していた。俺はアイスを開けた。固くてスプーンが使えそうになかったので、日光に当てて少し溶かすことにしようと、日光が当たる位置にアイスを置いた。
「ハッピー星って、簡単に作れるね」
「え？」
突然戻った話題に俺は戸惑いつつも、まあいつものことだしと納得して、Aちゃんのその後の主張を聞くことにした。
「ぬことアイスとしゅーさんがいれば、私のハッピー星は完成するから、私はもうハッピーなんだよ」
Aちゃんの言いたいことが理解できた。Aちゃんは今が幸せだと言ってくれているのだろう。俺が幸せだと感じていることに、Aちゃんも幸せと感じてくれたのだ。不確定で曖昧な幸せを、Aちゃんも俺も感じている。俺はチュールで猫と遊んでいるAちゃんを思い切り抱きしめた。
「…………しゅーさんからのハグも、ハッピー星には必要だねぇ」
暢気なAちゃんの声がまた部屋に響いた。