95.ペンギン色をしていた夢のような希望だった残骸【npl】 ページ38
我が家にペンギンがやってきた。
白いぬいぐるみのような体のそいつは、どうやら遥か遠くの星からやってきたペンギン型の宇宙人だそうだ。
学校を終えた俺たちがいつも通り空き地に行ったある日のことだ。ランドセルを放り投げるようにおいて、さて何をしようかと話し合おうとしたとき、「あ」としゅーさんが小さな声をあげた。そして、空き地にあるヒューム管に近づいて、「なんかいます」と俺らに言った。
「なにかって、なに？」
蘭たんが口に出すと、しゅーさんは「ぬいぐるみ、だと思います」とどうにもはっきりとしない物言いの答えを返した。
すぎるさんもしゅーさんと同じようにヒューム管に近づく。そして覗き込み、躊躇なく手をその管の中に入れた。
「なんや、これ」
すぎるさんが持ち上げたのが、こいつというわけだ。
そいつが地球にやってきた目的は、「俺を幸せにするため」だそうだ。
それをこのペンギンから聞かされたあと、つまりは俺がこいつを預かってから次の日、俺以外の3人にその話をすると、3人は揃えて「無理」と答えていた。それはそうかもしれない。俺だって無理だと思う。それでも俺たちは頭を捻りに捻って、なんとか俺の幸せに繋がりそうなものを見つけ出そうと努力した。
そして数十分の時間を無駄にして、ようやく口を開いたのは蘭たんだった。
「Aちゃんのこととか」
Aちゃん。それは俺たちのクラスメイトの名前だ。世界でいちばん幸せそうじゃないと俺たちはよく表現している。彼女がどうしたというのだろうか。
「はっち、あの子のこと、好きじゃん」
「え、うん、まあ」
「で、おれたちも、あの子のこと、好きじゃん」
「はい」
「うん」
揃えるように返事したのは、すぎるさんとしゅーさんだ。
「だから、Aちゃんのことを幸せにすれば、はっちの幸せにも、ついでにおれたちの幸せにも近づくんじゃない？」
たしかに、この世界でいちばんの不幸を背負っていそうな少女を助けたい、と俺は何度も思ったことがある。それはきっと、蘭たんもすぎるさんもしゅーさんもおんなじだ。
「わかった。わかったよ。ねえ、ペンギン」
俺はペンギンにお願いを言った。宇宙人に何までできるから知らないけれど、願う。
「Aちゃんを、幸せにしてあげて」
Aちゃんの幸せとは何だろうか。俺たちは結局、最後までそれすら知らないまま、ペンギンに願ったのだった。
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