空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ37)

今日:17 hit、昨日:6 hit、合計:4,641 hit

＊ページ37

あの日、なにがあったのか、私は今でも鮮明に思い出すことができる。

ロボロという人間は人懐っこく、明るくて、天使みたいな印象を周りの人間は持つらしい。
だが幼馴染の私だけは知っている。
彼はそんな人間ではない。彼の本質は無機質だ。何事にも無感動で、何事にも無関心だ。
それでもロボロは真っ当に生きようと努力していたし、そんなロボロのことが私は好きだった。すごいことをしているなと思っていたし、真似できないなと思っていた。そこに恋愛感情はなかったけど、好感を持っていた。
だから私は、そんなロボロから告白されるだなんて、思ってもいなかった。
Aのことを女の子として意識している、好きだ、と伝えられたとき、私はただ一言、
「……演技？」
ひどいことを言ってしまったという自覚はあった。ロボロの秘密のすべてを知っていたはずの私が唯一知らなかったことは、私に対する恋愛感情だけだった。
ロボロは目を見開いて、
「そおか」
一言だけ、やけに冷めた声で呟いた。
さらさらと私の髪もロボロの髪も靡く。風の気持ちいい、学校の屋上でのことだった。
「Aも、俺を殺すんやな」
次の瞬間、彼は柵の外側にいた。私の声は出なかったし、私の手は届かなかった。
あの日、ロボロは私の目の前で飛び降りてしまった。一命は取り留めたが、それでも、幼い私からしてみれば、それはトラウマとなるには十分だった。
誰もロボロが飛び降りた理由を知らないけれど、私だけは知っている。
だから私はロボロの元に来る。
幼馴染思いの優しい人間なんかではない。これは私のためだ。
私を理由に飛び降りて死なれるのが、怖いだけだ。
殺したつもりはない。けれど、周りから長い間、ずっとずっと理想像を押し付けられていたロボロからしてみれば、それは裏切りに近い行為だったのかもしれない。

あの日、ロボロは私の目の前で飛び降りた。
届かない声と腕。落ちていく小さな身体。冷たい声。時が止まる瞬間。ロボロの笑顔。屋上。靡く髪。空の色。風の匂い。そして、告白。
私はいまだに夢に見る。
永遠に抜け出せない悪夢を見続けている。