空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ33)

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91.だって誰も助けてくれないから【sha】ページ33

人生はいつか終わるけれど、海はいつまでも終わらない。
だから、海へ行く。
ひとりぼっちの夜に、泣きたい夜に、眠れない夜に、眠りたい夜に。
私は家を飛び出して、夜の海へと逃げる。
別に入るわけではない。水着は持ってきていないし、上がった後に体を洗うのが面倒くさい。ぼんやりと海を見つめるだけ。夜の海は朝の海や昼の海とは比べ物にならないくらい、空との境界線がなくなる。どっちも真っ暗で真っ黒で、このまま全てを飲み込んで、全部を一つにしてくれそうで、私は海に来て良かった、とそこではじめて思う。走りながら海へ向かっている間は、そんな余裕なんてない。私の失敗したこととか、不安なこととか、恐怖の対象とか、悲しみの感情とか、そういう表現するのも嫌になる気持ちが浮かんでくるだけだ。
このまま死にたいとか消えたいとか、そんなことはあんまり思っていない。ただひたすらに心を落ち着かせたいだけだ。
そんなことをやらなくていい日が来ればいいのに、とは思う。そうすれば少しだけかもしれないけれど、精神的にも健康的な生活を送れると思うから。
「やっと見つけた！」
突然、私の後ろから声がした。いつも聞く声だ。私が世界で一番好きな声だ。
走ってきたのだろう。荒い呼吸音が聞こえる。私がゆっくりと振り向くと、スウェット姿の一人の男の人の姿がそこにはあった。やっぱり、私の大好きな人だった。
「シャオちゃん……」
「また家出してたん？」
「…………ごめんなさい……」
「別に怒っとらんよ。一緒に帰ろ？」
「…………うん」
本当は、海に逃げに来ているわけではない。こうやってどこかに行った私を探してくれるシャオちゃんに会いたいだけだ。
シャオちゃんは私のことを好きでいてくれる。だから一緒に暮らしているわけだし、いつも隣にいてくれる。けれど、私は不安で仕方がない。もはや病気かもしれない。
シャオちゃんは私の手を引いてくれる。暖かいその手が、私は何よりも欲している。シャオちゃんは多分、そのへんのことも含めて全部をわかっているのだろう。私の願望も不安も恐怖も好意も嫌悪も愛情も恋慕も、ひっくるめて大好きでいてくれているんだろう。