86.紛い物の宝石【shp】 ページ28
「これ」
「わっ」
突然ショッピ君からぽいと投げるように渡されたのは、ワインレッドカラーの小さな箱だった。「開けて」と急かすように言うので、私はその通りに行動する。
「あ、」
それはプラスチックでできたおもちゃの指輪だった。プラスチックでできた銀色の輪っかに、これまたプラスチックでできた紫色の宝石もどきがくっついている。
「かわいい」
「ほんま？よかった」
「これ、どうしたの？」
「ゲーセンで取ってきた」
たぶん今日の放課後の話だ。私のバイトが終わるまで、ショッピ君は外で時間を潰して、そして必ず迎えにくる。図書館で勉強していることもあれば、今日みたいにカラオケやゲーセンで彼の友人と時間を潰していることもある。たまに私のバイト先で時間を潰していることもある。恥ずかしいのでやめていただきたい。
「ありがとう」
「貸して。俺がつけてもええ？」
「うん」
ショッピ君は私の右手を掴み、ゆっくりと持ち上げる。そして薬指にそっと入れーーーーようとした。
「……きつい」
「……これ以上、入らん？」
「うん……」
指輪は第二関節の少し上くらいで止まる。子供用の指輪は小さいからだろう。自分がデブなのかと思ったけれど、そういうことではないだろう。むしろそうだと思いたいです。
「うわあ、俺、ダサい……」
ショッピ君は顔を抑えて、その場に蹲った。その声はいつもみたいに余裕のある感じではなくて、本気で自分を恥じているように聞こえる。私もショッピ君の隣にしゃがみ込んだ。
「気にしてないよ、むしろ私が太ったのかと思ったし」
「いやそれはないやろ。A、本当に内臓詰まっとるのか不安になることがあるくらい細いやん」
「そう……？」
「あー、俺、ほんまかっこ悪……」
ショッピ君は本気で落ち込んでいるみたいだ。私は本当に何も気にしていない。むしろショッピ君がなにかくれたことが嬉しかった。私がそれを素直に伝えると、「……ならええわ」と少し立ち直っていた。よかった。
「せっかくだし、チェーンでも通してネックレスにするよ」
「おー、ええなあ」
「明日、ショッピ君もおんなじの取ってくれば？お揃いだよ」
「いや、俺がつけるのは変ちゃう？」
ショッピ君はケラケラと可笑しそうに笑った。それを見て私の顔も自然と柔らかくなる。
いつかの数年後、この指輪の数倍の値段する指輪を贈られることを、今の私は知らずに笑っていた。
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