空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ21)

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80.それで僕らは救われるのか【sha】ページ21

「A、今すぐそのカッター捨てて」
「や、やだ。というか、無理」
「それでもAがこれ以上傷つくのは、オレ見たくないから」
ぼたぼたとAの腕から滴り落ちた血液は床を汚す。それには目もくれず、シャオロンはAに近づいた。それを見たAは後退りする。そしてシャオロンがまた一歩近づく。
「だいじょうぶやから。ほら、それ捨てて」
「や、だって、あの、む、むり」
「なにがそんなに怖いん？」
「わ、わかんないよ。あとで絶対後悔するってわかってるのに、でも、むり、なんでだろ」
ぼろぼろとAの瞳から零れ落ちていく大粒の涙を拭おうとシャオロンは手を伸ばした。それに対して、「やだ、いまは触んないで」とAはキチキチ、とカッターの刃をシャオロンに向けた。
「これ以上、近づかないで、ねえ、おねがい、しゃおちゃん」
涙声のまま声を出すAに、シャオロンはゆっくりと近づいた。けれどAは今度は後退りせず、そのままシャオロンにカッターを向け続けている。
「やだ、こないで、これ以上来たら、刺すよ」
誰を、とも、何を、ともAは言わなかった。その対象が自身の腕なのか、それともシャオロンなのか、シャオロンにはわからなかった。そしてそれはもしかしたらAもわかっていなかったかもしれない。
それでもシャオロンは臆さずに彼女に近づいた。そしてカッターを向けたままのAを思い切り抱きしめた。
「な、なにしてるの！？」
Aが信じられずに大声を出した。カッターはシャオロンの服を裂き、彼の肌へと触れていた。Aは別に本気でシャオロンを傷つけたいわけではなかったから。
それでもシャオロンは笑ったままAを抱きしめていた。抱きしめられていたAはシャオロンの表情がわからなかったけれど、それでもなんとなく笑っているということはわかった。
そしてシャオロンは軽やかに愛を紡いだ。
「Aに殺されても、オレはAが大好きやから」
この人、頭おかしい、とAはシャオロンに対してはじめてそんな感想を抱いた。殺されてもいい、だなんて、本気でやばい人間だ。
カラン、と軽快な音を立てて、カッターが床に落ちる。先程までAが抱えていたわけのわからない怒りや不安や孤独はすっかりきれいになくなっていた。
いま、Aが抱いているのは、目の前の自分の味方に対する得体の知れない恐怖だけだった。