78.オーバードーズの夢を見る【lntn】 ページ19
「A……、薬取って……」
「やだ」
休日の昼間からソファに寝転がり虚な瞳でここではないどこかを見ていた蘭たんは、私にそう声をかける。私は即答で却下した。
机上に数枚ほど乗っている某精神安定剤のシートはすべて開封済みで、一目で「あ、こいつODしたな」とわかってしまった。
「ねえー、Aー……」
やけに間延びした声を出してくる蘭たんを軽く無視しながら、私は蘭たんの隣に座った。蘭たんは甘えるように私に近づき、自身の頭を私の膝へ乗せた。
「あはは」
「なに笑ってるの」
「べつにー」
瞼は今にも眠りそうなくらい下がっているのに、その後ろにある瞳は爛々と輝いている。そんなちぐはぐとした顔つきのまま、蘭たんは笑っていた。
こわいと思う。にがてだと思う。でもきっと、その感情を今の蘭たんに伝えても、蘭たんは傷つかないのだろう。爛々とした瞳で私を覗き込んで、「おれはAのこと、すき」と舌足らずの声で言うのだろう。
私がぼんやりとしていると、膝の上にいた蘭たんが突然腕を掴んできた。ひ弱な蘭たんが出したとは思えないくらい力が強くて、思わず「痛い」と小さな声で呟いた。蘭たんは私の言葉を無視して言葉を続けた。
「ねえ、しようよ」
蘭たんの瞳はぎらぎらと輝いている。病気を疑いたくなるような不健康な瞳をしている。
一瞬、それに流されそうになった。このまま蘭たんに喰われるように押し倒されて、その怪しく輝く瞳に私だけを映して、そしてこのまま二人で心中するんじゃないかって勢いのキスをしてーーーー
「寝なよ」
「いたっ」
ソファに置かれていたクッションを蘭たんの顔に押し付ける。蘭たんはわざとらしく声を上げた。
「ひどい。振られたー」
けらけらと笑う蘭たんは全く傷ついていないように見えた。「じゃあ、おやすみ」と軽い調子で声を上げて、彼は私の膝の上に居座ったまま、目を瞑った。
「ベッド行きなよ」
「Aがいないと寝れないから無理」
蘭たんは甘えるように私のお腹に顔を埋めてきた。私はそれを拒絶することなく受け入れた。
きっと次に目を覚ました蘭たんは「次は絶対飲み過ぎない……」と後悔するのだろう。
それでも彼はまた同じことを何度でも繰り返すだろうし、私はそれを止められもせず受け入れるしかできないんだろう。そして彼に流されそうになって、たまに流されたり、そんなことがこれからも続いていく気がする。
私は早速寝息を立て始めた蘭たんの頭を優しく撫でて、そのまま同じように目を閉じた。
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