空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ15)

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鬱が不死身だったことをAが知ったのは、もう数ヶ月も前のことだった。
鬱の家で2人で飲んでいたある夜のことだった。Aと鬱の間にあるのは恋愛感情とかそういうどろどろしたものじゃなくて、どこまでもプラトニックな親愛のみだった。だから変な過ちにつながるようなことがあったわけでもなく、近くのコンビニで買った酒やつまみを2人で食べながら会話していただけだった。
やがて酒がいい感じに回り始めた頃。鬱が急に口を開いたのだ。
「おれ、不死身なんだよね」
最初は、酔っ払いの戯言だと思った。2人とも首まで赤くなる勢いで酒を飲んでいたから、そう信じて疑わなかった。だからAは「うそでしょ」とけらけら笑った。
そう返したらムッとした様子の鬱が無言でスッと立ち上がり、キッチンから包丁を持ってきたのだ。
Aは困惑した。そしてAが言葉をかける前に、鬱は自身の首を包丁で掻き切った。
勢いよく飛び出る血液と、倒れていく鬱の体。すべてがスローモンションに見えた。ついでに酔いも一気に覚めた。冗談じゃないことくらいもうわかった。いやな確認のしかただな、とは思った。
Aは叫びたいのを抑え込んで、震える手でスマホを掴んだ。
警察？救急？なんて、説明すれば。
震える指で画面をタップしようとしたら、ガッと手首を掴まれた。
信じられないと思った。Aは恐る恐るその手の持ち主を見た。
この部屋にいる人間はAと鬱だけだったから、相手は明白だった。でも、信じられなかった。
呆然とするAの顔を見ながら、
「ほら、嘘やないやろ」
と死んだはずの鬱は弱々しく笑った。

傷が塞がった鬱は、元通りの鬱だった。
そして鬱から体質についての話を聞いた。
元々こんな体質だったわけではないこと、ある日突然怪我の治りが早くなっていたこと、付き合っていた女の子に刺されてもぴんぴんしていたことから確信に変わったこと、痛覚は正常なこと、そして、女の子に刺されて動けない時に、他の人に見つかる前に見つけて助けてほしいこと。
Aはそれを黙って聞いていた。