空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ14)

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「この包丁、どうしよう」
「あー……ぼくが、持って帰る……」
付き合っている女に刺されまくって、そしてそのたびどこかで死んでいる鬱を回収するのが、最近のAの役目だった。
今日はお礼としてコンビニでケーキを奢ってもらおう、と思いながら、まだ倒れている鬱に向かって、ペットボトルを差し出した。
「はい、水。口の中、気持ち悪いでしょ」
「……ん、ありがと……」
お礼を言ってかろうじてゆっくりと右腕を上げて受け取ったのを確認したAは、動けない鬱の左ポケットに入っている財布から千円札を一枚抜いた。
「お代もいただきます」
「奪う……とも、言うよな……」
「そんなこと言うならおいてくよ」
「ああ、嘘……！ごめん……ゴホッ」
ごぼり、と口から新たに血を吐き出した鬱は、顔を歪めた。Aは自らが持ってきたタオルも渡した。血が目立たないようにと選んだ紺色のタオルは暗闇ではわかりにくいがすぐさま色を変える。
「きもちわるい……」
「いつも刺されるようなことしてる大先生も悪いでしょ」
「しあわせに、なりたいだけなんやけどなあ……」
「……無理でしょ」
「……なんで」
あなたの求める愛は大きすぎるから。
割れたコップに水を注ぐことほど虚しいことはないから。
穴の空いた箱にプレゼントを詰める人間なんていないから。
大先生、欲張りだもん。
……なんてことは言えない。彼は絶対に否定するから絶対言わない。
「大先生、すぐ浮気するから」
「ひどっ……」
ははは、と笑う鬱の顔色は、先ほどよりも明るく見えた。よく見ると、身体の方もちょっとずつ回復しているようだった。