74.世界一可哀想な女の子のヒーローになりたい話【3】 ページ11
「ヒーローになりたかったんですよ」
しゅーさんはわたしを膝の上に乗せたまま、ぽつりと呟いた。
「ヒーロー」
「そうです、ヒーロー」
カーテンを閉めたままでも隙間から入ってくる日光は眩しくて、わたしが外から目を逸らすようにしゅーさんの顔を見ると、しゅーさんは優しそうに笑っていた。そしてしゅーさんはわたしの頭を撫でた。それが気持ちよくて、わたしは目を瞑った。しゅーさんの手は大きくて、暖かかった。
「しゅーさんは、なんでヒーローになりたかったんですか？」
しゅーさんは少しだけ間を空けた後、「男のかっこつけです」と言った。わたしはそのまま黙って彼の話を聞く。
「世界一可哀想な女の子がそこにいたから、つい助けずにはいられなかっただけですよ」
「へえ……」
誰だろうその子は、って。
「わたしじゃん」
「そうですよ。Aちゃんのことです」
しゅーさんは、くすくすと笑いながらわたしの頭を撫で続けている。そこには馬鹿にする意図とかいじめたい欲望とかはなくて、ただただわたしを愛おしという感情だけが溢れていた。それは今までわたしが触れたことのない類の感情で、それがくすぐったくて、でもそれ以上に嬉しかった。
「……しゅーさんって」
「はい」
「実は私のこと、かなり好きだったりします？」
「そりゃあ、まあね。好きじゃなかったらこんなことしないでしょ」
と、しゅーさんは先ほどからずっとつけっぱなしだったテレビを見た。それにつられるように、わたしも目を向ける。
テレビの中で踊っているのは、わたしの名前とわたしの写真と誘拐の文字。
わたしはしゅーさんの服の袖をぎゅうと掴んだ。そしてそれにすぐ気がついたしゅーさんはわたしの手に優しく触れ、包み込むように手を重ねた。
「しゅーさん、これからも、わたしのヒーローでいてくれる？」
「もちろん」
わたしの胸によぎった不安を一瞬で振り払うように、しゅーさんはそんな言葉をわたしにすぐ返した。
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