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68.桜の下に置き去りにした物【ci】 ページ2
桜が降る季節になると思い出すことがある。
青春時代の汚点、と言ってしまうと相手に失礼かもしれないので、かさぶたとかしこりが正しいのかもしれない。
少し思考に隙間があると、あの頃のことを思い出す。桜吹雪の中の佇んでいたひとりの女の子を思い出す。
あの時、一言だけでも、彼女に伝えていればよかったのに。
「チーノくんのことが、好きです」
それは、高校の卒業式のことだった。
左胸に踊る造花が少し邪魔で、早く外したかったことをぼんやりと覚えている。
校庭では友人同士ではしゃいでいる声が聞こえていて、だからこそ誰もいない教室の静寂さが際立っていた。
最後まで教室に残っていたのは、俺と、隣の席の子、Aさんだった。
Aさんとの関係性は言葉の表すのはすごく難しい。連絡先は知らないし、休日にわざわざ会って遊びに行ったことはない。けれど、雑段は結構していたことを覚えているし、ぶっちゃけ、クラスの中でAさんと一番話したことのある男子生徒は俺だと思っている。
「もう卒業やなあ」
「そうだね」
なぜあの時2人で残っていたのか、もう思い出せないのだが、「告白したいから」という理由は伝えられていなかったと思う。だから、その時の俺は、ああ、もうAさんと話すこともないんやな、とひとり感傷に浸っていた。
「ねえ、チーノくん」
「なんや？」
「私、チーノくんのことが好きです」
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