空想と葉桜【d！】【npl】 (ページ1)

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67.虚像の天使【lntn】ページ1

気がつくとおれは狭い棺のような場所にいた。
辺りは真っ暗で、手足をやっと伸ばせるかどうかの大きさしかない場所だった。
どうしてこんなとこにいるのだろうか、と状況を飲み込んだ後に浮かんできた感情はそれだった。
息は出来る。手足はきちんと動く。それだけはわかるけど、そこからはどうすればいいんだ。どうしたものか、と身体を横に向けると、ふと、おれの腹の上に何か、物が置いてあることに気がつく。
なんだろうと思い触れると、それはざらりとしていた。
それはひとつではなく複数あったし、大きさもまちまちだった。手のひら二つ分くらいの大きさのものもあれば、木の棒のように細長いものもある。
一つひとつ、視界を頼れない中、触感だけを頼りにしていたところ、おれはひとつの可能性に気がついた。気がついた、というよりも、それは確信に近かった。
ーーこれは、彼女だ。かのじょの、骨だ。
そう思えた時、おれはようやくこの状況が夢だということに気がつけた。そしてそれはおれが今抱えているものが、恋人の骨だということにも説明がつく。
ならば焦る必要もない。
おれは彼女の骨を抱きしめた。当たり前のように、そこからは温もりは感じなかった。
これは、いつかくる未来なのだろう。
近いのか遠いのかわからない未来、彼女がおれの元から消えることを表しているのかもしれない。
その時おれは、正気を保っていられるだろうか。
いまみたいに、彼女の骨がそばにいてくれるわけではない。
いつか、ぬくもりがおれのそばから離れる日が来てしまう。
そんな未来が来ないでほしいとは思う。けれど、それはどんな形であれ、いつか訪れる未来だ。
だからこそ、彼女にそばにいてほしかった。
こんなの硬く冷たいものではなく、暖かく柔らかい生きている彼女に触れたい、吐息の音を聞きたい、と思った。
そう思い始めると、おれの気持ちはとまらなくなる。
1人で棺の中にいる時には微塵も湧いてこなかった、寂しさとか苦しさとか、そういう薄暗い感情が一気に溢れてきたのを感じた。
思わず、ぎゅうと彼女の骨を抱きしめる。あたりまえのように、鼓動の音は聞こえない。それでも、いまはそれだけ充分で、そしてそのときはじめて、この夢が覚めてほしいと願った。

おやすみなさい。次に目覚めたら、おれの横に彼女がいることを願って。