その声をずっと (ページ2)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:252 hit

かっこ悪いページ2

時が止まったような感覚とはこういう時のことを言うのか。

ズキズキ痛んでたはずのおでこの痛みなんか薄れて、動悸で体が熱くなるのを感じた。

やっぱり昔よりかっこよくなってる。

あ、でもその真っ直ぐすぎる目は変わらない。

なんて一瞬で頭の中を色んな感情が駆け巡ってる最中に、

あ、やばい。

そう思ったのは、彼が何かを話し出したからで。

咄嗟に立ち上がり、しゃがんだままの彼と扉の隙間を通って、スタジオを出た。

とりあえず走って、さっきは使わなかった階段を全力で降りる。

追いかけてきてるかはわからないけど、振り向くこともできなくて、玄関を過ぎて数分走ったところで気がついた。

あ、、、、補聴器、、

あれがないとほとんど聞こえないのに。

10歳の時に発症した難聴は、徐々に聞こえなくなっていくという病気。

24歳になった今、右耳はもう完全に聞こえなくて、残った左耳ももうかなり聞こえなくなってる。

それでも補聴器をつければ、まだなんとか日常会話くらいならできる。

そう、だから補聴器がない今、大ピンチなんです。

あれは特注のものだし、予備の方はこの間修理に出したところだし、、、

はぁ、かっこ悪い。

かっこ悪いけど仕方ない。

とぼとぼと走ってきた道を引き返してスタジオの方へ向かう。

ロビーに着いて一応中を覗き込むと誰もいない。

よかった。とっとと見つけて今度こそ帰ろう。

さっき落としたと思われるところにしゃがみこんで、辺りを見渡す。

あれー？なんで無いんだ。

色んな角度から見てみても見つからない。

と、目の前に現れたビーサン。

は？ビーサン？？もう秋ですけど。

見上げるとたった今求めていた補聴器を差し出す、ちょっと焼けた照史くんがいた。

めっちゃ久しぶりだな、そりゃいるよね、メンバーだもんね。

何も発しない私の顔をやたらとじっくり見てくる様子じゃ、見たことあるけど誰やったっけー？って感じかな？

彼に何も言わず飛び出してきた手前、照史くんと話すのも気が引けて、補聴器を受け取ってスタジオを出た。