消えてしまった世界で【太宰治】

青い月 ページ4

私とお兄ちゃん以外の人がこの世界から消えた。






これは世界から音が消えて1週間経ってやっと理解できた。





電気が止まって水道から水が出なくなった。





工場を運営する人も消えたから。





お兄ちゃんは一度も私を責めなかった。


只々私に笑うだけだった。





「お兄ちゃん。」









「なに？」









「…何でもない。」









お兄ちゃんに触れられてもみんなは戻ってこなかった。





敦くん。


鏡花ちゃん。


国木田さん。


賢治くん。


乱歩さん。


与謝野さん。


谷崎さん。


ナオミちゃん。


社長。




私は毎日泣いた。




ずっとずっと泣き続けた。




お兄ちゃんは私の背中をひたすら摩り続けた。




いつの間にか涙が枯れた。





涙は減っても笑顔は増えなかった。




もし私が猫を助けなければ





もし私が買い物に行っていなければ






もし私が存在していなければ









この世界は変わっていたかな？







「ねぇお兄ちゃん。」









「なに？」








「月が青いね。」

街並みは→←珈琲一杯

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す