消えてしまった世界で【太宰治】

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乱歩さんに言われ家に帰る道中、私は町のあらゆる場所で足を止めた。




それは何気無い道路の端っこだったり、あの蛞蝓のお気に入りの帽子屋だったり…





「…ん？」




これは…桜の花弁？




向こうの世界ではまだ梅の季節だったけど…
こっちではもう桜が咲いてるのか。



梅の花見そびれちゃったな。




そんなことを考えながら歩いていると




ちょうど夕焼けと桜の木が合わさる場所に来た。




夕焼けの逆光で桜の木がよく見えない。




その時、脳内で砂嵐のようなノイズ音が響いた。




「…生き…わた…ゆっくり…」




あの子の声が途切れ途切れに聞こえる。





「あ''…あ''…」




まるで頭が割れそうなほどの頭痛。
乗り物酔いしたような吐き気。





「あ、あの…大丈夫ですか？」





後ろから心配そうな声が聞こえる。




私が返事しないでいると



「救急車呼びましょうか？」



と、肩を触られる。




「触るな！！」




つい大声を上げてしまった。




吃驚している見知らぬ人。




「あ…すいません。もう大丈夫ですから…」




私は急いで立ち去った。




夕陽から逃げるように。






街から逃げるように。

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