もう一度・・・

・・・ ページ29

それからは案外トントン拍子だった

書類をやりながら幹部達と接触をはかり、避けていたショッピに謝ってまたつるんだ

そしてトントンさんが俺を気に掛けてくれて幹部にまで推薦してくれた

俺に手を貸してくれたのはトントンやショッピ達やけど全てのきっかけはAさん

チーノ「あー、マジで俺なにしてん」

夕日を見ながらタバコを吸っていた筈なのにいつの間にか夜に差し掛かっていた

俺が裏切った憎たらしい暗闇がまた・・・やって来た

チーノ「夜・・・かぁ」

俺がAさんを裏切ったのは冬の夜だった

あの年は例に無い極寒で夜中に外で寝ればワンチャン凍死するんじゃないかって位寒かった

幹部から邪険にされているのをいい事に一般兵も面白半分でAさんに酷いことをしていた

あの夜もたぶんそうやった

夜中の見回りをしていると何処からか物音がして、
音の方へ行くと旧農作業用倉庫

外からつっかえ棒で閉ざされているそこに恐る恐る

耳を当てると爪で扉を引っ掻く様な音と小さなAさんの謝罪を繰り返す声

あの時助ければよかったのに

俺自身の意思を貫けばよかったのに

俺の弱さが邪魔をした

またあの日々に逆戻りすんのか？せっかく此処まで来たのに？

Aさんみたいに人間扱いされんくなるのか？

そう考えると怖くなった

そんなのイヤや、死んでもゴメンや

そう思いながらそっと倉庫を離れた

離れる直後『バイバイ』と聞こえた

あの時はしっかりと頭で認識出来てなかったが確かにそう聞こえた

多分Aさんは誰かが来た事が分かっていたのだろう

Aさんは人の気配に敏感だったから

俺が耳をそっと離した時・・・Aさんを見捨てて逃げる事が分かったのだろう

なのに責める事も罵倒も・・・ましてや泣き叫ぶ事もせず自分から俺と距離を置いた

チーノ「俺にどうしろっちゅうねん」

何も出来ないっすよ

昔Aさんから貰った綺麗なオレンジ色のガラス製灰皿は綺麗なままテーブルの上に鎮座している

チーノ「こんな綺麗なモン・・・俺っ使えないっすよAさん」

袖で乱暴に目から溢れる涙を拭うとテーブルでタバコの火を消し

ベッドサイドのランプをつけて

泣き顔を隠す為にベッドに潜り込んで眠りについた

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