本日はお日柄もよく

結婚までのエトセトラ/弟者 ページ20

『明日は××駅で。指輪、彼女さんにはバレないように！弟者ってばウソつくの下手なんだから(笑)』


軽快な通知音と共に、赤色のスマホに表示されたポップアップ。知らない女の名前。メッセージの内容。文字からでも伝わる、その親密さ。

洗濯物を畳む手をピタリと止めて、しばしジッとその画面を見つめる。
このヒト、誰？指輪ってなに？私にバレないようにってどういうこと？

……弟者、私にウソついてるの？


「お風呂上がったよぉ〜」

「……」


タイミングが良いのか悪いのか。
濡れた短髪をがしがしタオルで拭きながら、無表情の私を見てふにゃっと笑う弟者。体も顔も雄々しい見た目してるくせして、時々子どもみたいな笑顔を浮かべる。
そんな彼にいつもならキュンして胸がぎゅうっとなる私だけど、あいにく今日はカチンでぎゅうっ(関節技)な私である。

メラメラと私から燃え盛る炎に気づくことなく、弟者は「お酒お酒〜♪」などとご機嫌に冷蔵庫を開けている。


「熱いうちにAも入ってきたらぁ？おれ洗濯物やっとくし」

「…その間に返信するつもりなのね？」

「え、なに…てか顔こわっ。どしたの？」

「どうしたもこうしたもないっ！！」


きれいに畳んだ洗濯物を怒り任せに投げつける。弟者はキョトンとした表情を浮かべ、何なくそれをキャッチした。ムカつく。


「なに怒ってんの？俺何かした？」

「私に隠してることあるでしょ。言え」

「はあ？俺別になんも…」

「言え」

「……。そういや、こないだAのアイス黙って食べたかも…？」

「……それはまた後で問い詰める。私が言ってんのはコレのこと」

「え、違うの？やべっ言わない方がよかったじゃん俺！」


食べ物の恨みにグッと固めた拳を緩め、スマホを眼前に突きつける。液晶に視線を向け、わずかに目を見開いた弟者に、私はフンと鼻を鳴らした。

言い訳できるモンならしてごらんなさいよ。
あなたにそんな器用なことができるとは思わないけど。

浮気がバレた男にありがちな、聞き苦しい言い訳に備えて腕を組む。
しかし、弟者は困ったように微笑むだけだった。


「…なに笑ってんの」

「あー、うん。バレちゃったもんはしょうがないけど……でも、今言うのもカッコつかないでしょ？」


「また今度仕切り直しね」と照れくさそうに頭をかく弟者。隠してたって…やっぱホントに浮気なんじゃん！
何かの誤解であったらいいのにと心の隅で願っていた私は、ワナワナと震えながら彼の胸板を叩いた。


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