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「………」
思いついてしまったその可能性に、途中で買ったフライドチキンの袋をぎゅうと握り締める。
私がごはん担当で、弟者がケーキ。今年のクリスマスは、そういう約束だった。夜が楽しみだって、笑って言ってくれてたのに。
汗をかいて火照っていた体は、既に冷え始めていた。
鼻の奥がツンと痛んで、切り替わった信号の青いライトがじわじわぼやけて滲んでいく。喉がピリリとヒリついて、目頭が何だかひどく熱い。
…あ、ダメだ、泣く。
ぎゅっと唇を結んで、涙がこぼれないように下を向く。私を邪魔そうに避けて信号を渡るカップルたちの雑踏を聞きながら、分厚い涙の膜がゆらゆらアスファルトを歪ませるのをじっと見つめていれば、突如背中にトンとぶつかる人影。
「っ、ご、ごめんなさ……」
頭を下げて避けようとするも、私の背中は何か温かいものにすっぽりと包まれた。
短い髪がチクチクと頬に刺さる。後ろからお腹に回された手が、冷えた私の両手をつかまえて離さない。
はあ、と耳元をくすぐる安堵の吐息がやけに温かくて、我慢していた涙はこらえ切れずにぼろりと頬を伝った。
「……も、帰ってこないかと思った…」
数日振りに聞く、弟者の声。
何か言おうと口を開くけど、喉の奥が詰まってうまく声が出せない。吐き出した息は、情けなくも震えている。
「この間は、ごめん。俺が悪かった。もっと早く謝れなくて、ごめんな」
私の肩に頭を乗せた弟者は、後ろからぎゅうと優しく抱き締めてくれる。
とうとう決壊した涙腺から溢れる涙をせき止めるのに精一杯で、私はこくこくと何度も頷くことしか出来ない。
ごめんなさい。
こんなに遅くなってごめんなさい。
つまんない意地張ってごめんなさい。
ひくつく喉から絞り出すように謝ると、弟者は小さく笑って私の額に口付けを落とした。
家に帰ったら何をしよう。
お腹も減ったし、どんなケーキなのか気になるけど、まずは早く、君にプレゼントを渡したい。
メリークリスマス!
(…兄者ちょっと、あのカップル)
(…あー、やっと仲直りしたの)
(あっ!アイツらチューした!公衆の面前で!)
(よし、邪魔という名の贈り物をあげに行こう)
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はやさか(プロフ) - へーすけさん» 初めまして!そして、返信が一年ぶりという非礼を詫びさせてください…orz 素敵なんて言っていただいたの初めてでとっても嬉しいです〜!ありがとうございます! (2020年12月18日 21時) (レス) id: bd75fcb4fa (このIDを非表示/違反報告)
へーすけ - 初めまして、へーすけと申します。はやさかさんの素敵な夢小説を読ませていただきました。誠に勝手ながらこっそりと応援しています。 (2019年7月22日 21時) (レス) id: 53845ff19b (このIDを非表示/違反報告)
はやさか(プロフ) - みぃさん» 返信遅くてすみません!!私も語彙力と文章力の無さに日々悩まされております……ありがとうございます、またみぃさんの作品も拝見させていただきますね! (2019年6月24日 16時) (レス) id: bd75fcb4fa (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - はやさかさん» 返信ありがとうございます!!私も色々書いておりますが語彙力が無さすぎて汗これからも頑張ってください!! (2019年1月6日 0時) (レス) id: f861e836fe (このIDを非表示/違反報告)
はやさか(プロフ) - みぃまさん» 遅くなってしまい御免なさい!有難うございます、この一年ろくに書けなかったので今年は沢山書きたいです! (2018年12月29日 10時) (レス) id: 63c1855969 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はやさか | 作成日時:2018年3月29日 22時